■ 第1章−「雪の景色に」

LastUpdate:2003/04/20 初出:Platinum(Guest)

自分なりに片付けたとはいえ、冬の風を感じる頃には、淋しいという感情も出てきてしまう。
祐巳さんには祥子さまがいらっしゃって、由乃さんには令さまがいらっしゃって。
鉄柵の向こうに見えるのは白亜の校舎。
それでも、あそこには近づけない。私からは手を伸ばせない。
いつでもお姉さまの傍にありたい。お姉さまの温もりを感ていじたい。
けれど、それは叶わないこと。
淋しい心に似合うほどに、乾いた風が澄み切って、今なら簡単に凍えてしまえそう。
求めることが傲慢であるなら、素直な自分を晒けることもまた、傲慢だとは知っているけれど。
……それも些細なこと、とも思ってしまう。
お姉さまに会ってしまえば、そんな感情も無くなる。ただ無条件なままに、あの笑顔に私の心は温められてしまうのだから。
だけど、温もりを与えてくれる人は傍には居てくれない。会うことも叶わない。
自分の寂しさも癒せないときには、どうしたら良いのですか――お姉さま。

「志摩子さんっ」
 そう、それは私の名前の筈だった。
 一瞬自分のことを呼ばれたのだと解らなかった。そしてそれを把握した時に、私はようやく自分の身体から硬い冷たさが抜けていくのを感じて、理解することができた。
 ああ、わかった。もうひとり、いらっしゃった。
 私の身体を温めてくれる方が。
「祐巳さん」
 その方の名前を呼ぶ。もう私の心はどこも冷たくない。
 どうして、この方はこんなにも私を心から温めてくれるのだろう。
 ああ、祐巳さんが居てくれて良かった。そのおかげで、私はこんなにも心安らかなままに居ることができる。
「……ありがとう」
 制服の裾を掴むのが精一杯。この純心な笑顔の前には、手に触れることすら恐れ多い。
 だけど、その行為で簡単に満たされて、理性すらも失われてしまった私には、今自分が何を言おうとしてしまっているのかを把握する力も無かったのだ。
 これだけは言わない、と心に誓っていた筈の言葉。
「……好きです、祐巳さん」
 鉄柵の向こう側から冬の風が吹いた。何故かとても暖かく感じたそれを、私はまだ整理の付かない頭の中で、心地よく思っているのだった。

 

      *

 

 ここには世界がある。海も国境も越えない所にも、独自の世界が展開している場所がある。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
 いつからだったか。私もかつてはこの世界の住人であったように思う。
 かつて、私の中には聖典の中の世界だけがあった。そして、望むべくの世界が、ただここに悠然と、別の国として存在していた。だから私はこの世界へ住むことを許されたとき、それは天にも昇る心地だった。
 だが、今はどうか。私は別の人種に成り下がってしまった。心から無垢になんて笑えない。制服の下には、きっと澱んだものがたくさん眠っている。天使なんかじゃない。楽園に住むことを許された、透明な少女達の世界で、私はただひっそりと自分を押し隠して生きている。
 私は、穢れている。清らかに生き、清らかに女性へと育っていく少女がいる。そのなかで馳せる私の想いの、なんと卑劣なことか。いつからだったかは今となっては、もうわからない。ただ言えることは、私はひとりの少女に、心を奪われているという事実だけだ。
 それは性への憧憬と同じことなのだ。清らかな交際、という言葉は成り立たない。私は彼の無垢な少女に触れ、抱きしめ、口付け、交わしたい。要は、そういうことなのだ。
 真っ直ぐな視線を向けられない。私はいつも邪な視線で彼女を見ている自分を知っている。裡では愛を意識することと欲情的になることは同義語でしかなく、奪い、蹂躙することしか頭に無い、卑小な人間なのだ。心は好色に満ち、ギラギラした欲望で見ている。それは、内面的な罪では、姦通することと同じである。聖書はそう、私に教えている。
 私は毎日の罪を自覚しながら生きている。しかし、それを止めることは出来ない。


  穢れ。
  私の中でのなんてやましい、罪が。
  祐巳さんを欲しいと、願う。


 途端、現状を理解した私は急に恥ずかしくなってしまった。私は今、何を言おうとしていた。何を言ってしまった。現状を認識しようとすればするほどに頭の中が混乱してきて、何が何だかよくわからなくなってきた。
「志摩子……さん?」
 きょとんとした瞳を露にしながら、祐巳さんが驚きを投げかけてくる。
「ご、ごめんなさいっ……」
 ただ、謝ることしかできない。
 きっと目の前の無垢な友人は今の言葉を好意的に解釈してくれるのだろう。だけど、私の中の行き過ぎた泥質の感情は、そんなに生易しい物では無かった。私がずっと欲しがっていた、けれど求めてはいけないと幾重にも封をして心の奥底の、誰にも触れられない所にしまっておいた筈の感情。
 不意をついて出た言葉は、往々にして真実の近くにある。同じような台詞を静さまにも言ったことがあるけれども、それとは異なる、別の感情。それはとても、傲慢な感情。
「うん、私も志摩子さんのこと、好きだよ」
 いつもの表情に戻った祐巳さんが私に笑いかけてくる。祐巳さんの偽りの無い笑顔。祐巳さんの穢れの無い眼差し。私の中の汚い心など、きっと見えない世界にいらっしゃるのだといつもながらに思う。
 だから、こんなにも惹かれてしまったのだと思うけれど。
 それでも予想通りだったその答えに、私は少し淋しくなってしまう。
「……だけど、私の『好き』は……」
 祐巳さんが聞こえるか聞こえないかの小さな声で、付け加えるように呟いた。
 そう、私の『好き』は、決して祐巳さんのように、純粋な感情などでは無いのだ。
 その場を納得させられてしまった私には、今の祐巳さんが言った言葉の意味を、完全に把握することができなかったのだ。

 

      *

 

 乃梨子への感情が変質したのはいつからだったか。
 乃梨子を大切に想えるようになるまでに必要だった日々はごく僅かなものだった。妹にしたのも、祥子さまにせっつかれたとはいえ、出会ってから僅かに一月。それだけ、私の心は乃梨子には簡単に奪われる物であったし、またあの一月には私自身熱く昂ぶった感情をずっと抱えていたわけでもある。今まで誰かを大切に思えたことの無い私が初めて抱えた感情だったから、熱に浮かされていたともいえる。
 あのとき私が抱いた感情は大切とか、そういうレベルの問題ではなかった。私は桁外れの好意を乃梨子に寄せていたし、乃梨子もそれに応えてくれた。触れることがそのまま私の喜びであったし、唇を重ねるだけで私は満たされていた。妹にした日と、私から誘い、初めて乃梨子の衣の内に触れるようになった日はそう遠くは無い。あのとき、私はきっと誰彼構わずに信号を送っていたのだと思う。そしてそれに応えてくれたのが、乃梨子だった。
 乃梨子とは深い部分で通じていた。だから乃梨子は私が誰にも触れさせなかった部分にも容易に触れてきたし、鍵を掛けてしまった感情も、安々と掴み取ってしまう。乃梨子は末期的な程に私と似ている、と感じる瞬間がある。だから私がどんなに閉ざしても、彼女の前にはそれは意味がない行為なのだ。私と彼女は同じだから。合鍵を持っている人間に鍵をかけたところで、それは意味の無い行為なのだ。だから、私は乃梨子という存在を愛おしく思える反面、どこか筋の冷たいところから、恐いという感情を抱くこともままあるのだ。
 それは、お姉さまが抱いた感情と同じことなのかもしれない。お姉さまはある日私のことを似ていると言った。だから私がお姉さまを欲望からに求めたとき、お姉さまは(そういう行為を好いているにも関わらず)私を拒んだのだ。それは私という存在を少なからず恐れていたから。触れなければ生きていけない。だけど、拠り所にしても生きていけない。私達は同じだから、だから私達は傍にいることが当たり前でも、それ以上に近づくことはできないのだ。
 いつしか渇ききった秤のように、乃梨子への過度な愛情が薄れていった。愛せなくなっていった、と言い換えてもいい。
 1年の教室の傍を通る時に乃梨子の声が聞こえたような気がした。だから私は踵を返し、階段へと足を向けた。
 そこにいるのは私でしかない。だとしたら、見たくはない。


「志摩子」
 そんな思考の交錯の折に声を掛けてきたのは、ちょっと意外な人物だった。
「黄薔薇……さま?」
 そこにいたのは勿論黄薔薇さま。だけど、あまり普段声を掛けられることが無いものだから、私は少しだけ驚かされてしまった。
 高い背丈。だけれども、優しい笑顔。ああ、私とは違う、天使がそこにいる。
「……何かあった?」
「……いえ?」
「そう。……なら良いんだけどさ」
 心配そうな視線を送ってくる黄薔薇さま。私は一体、どういう風な表情をしていたのだろうか。沈んでいるように見えたのか、あるいは怯えているように見えたのか。祐巳さんのようにも、心を表情に鏡写しにしていたのだろうか。
 ――いけない。
 私は慌てて心の中で彼の名前を否定する。祐巳さん、という名前が浮かんだだけで、もう気持ちはどうしようもなくなってしまう。
 ……重症かもしれない。
「また、その顔」
 黄薔薇さまに指摘されてハッとなる。ふふ、と笑い、黄薔薇さまは嬉しそうに目を細める。
「……最近、志摩子も自分の感情を出すようになってきたね」
 私は、一体どんな顔をしていたのだろう。あるいは、滑稽にも見えたのだろうか。
「変でしたか?」
「あ、ううん、そういうわけじゃなくて。……えっと、どう言ったらいいのかな」
 顎に右手を添えて、短い時間思案するそぶりを見せた後で黄薔薇さまは言った。
「いや、良いことだと思うよ。志摩子はさ……もうちょっと、そういうのがあったほうがいいと思うし」
「……祐巳さんみたいに『百面相』でもしていましたか、私」
 『百面相』という言葉に黄薔薇さまは一瞬きょとんとした後、お笑いになった。
「いや、そこまではいかないかなぁ。志摩子はやっぱり、志摩子の感情の出し方をするしね」
「私の、感情の出し方?」
「なんていうのかな、とても綺麗な顔してたよ、志摩子」
 そのあまりの言葉に、黄薔薇さまはそういうことを誰にでも平気でおっしゃるから、ミスター・リリアンの座が不動なのでは無いかと思ってしまう。
「……本当に、何も無い?」
 何も無いなんてことは無い。だけど、この感情は、とても醜いから。
「私で聞けることなら聞くけど」
「いえ、大丈夫……です」
「そう」
 あっさり引き下がって、黄薔薇さまは私の隣に並ぶ。
「薔薇の館行く所でしょう? 私も行くところだったから」
「では、ご一緒しましょう」
 なんだか、黄薔薇さまと一緒にいるのは不思議な気分で。私は、黄薔薇さまのことを何もよく知らないのだけれど、何故だろう、この人とはそう遠くない感情を感じる。
「ひとつだけ、聞いてもいいですか?」
 もしかしたら、この人は私と同じ人種なのかもしれない。
「うん、いいよ」
「黄薔薇さまは……由乃さんのこと、好きですよね」
 黄薔薇さまは迷うことも無く、すぐに答えてくださった。
「由乃? うん、好きだよ」
 まるでそれが、とても当たり前のことである様に。
「……そうですよね」
 その好きが、どんな『好き』かは判らない。だけど、それ以上聞くことはできない。
「だけどさ」
 黄薔薇様が付け加える。
「志摩子は……祐巳ちゃんのこと、好きでしょう?」
「……!?」
「その顔だと、図星みたいだね」
 黄薔薇さまは曇りの無い笑顔で、咎めるまでも無いようにそうおっしゃった。
「……いつから?」
「私が気付いたのはわりと最近だけどね。でも私がいうのも何だけど、私が気付いてるぐらい
だから、他の人も――祐巳ちゃん自身意外は気付いてると思うよ」
 なんてこと。
「祥子はちゃんと知ってるし、聖さまもきっと知ってて卒業したと思う」
 紅薔薇さまの名前を聞いて、途端申し訳無い気持ちで一杯になってしまう。
 あの人も知ってらっしゃったのだ。私のこの汚い感情を。そして、お姉さまも。
「……ごめんなさい」
「いや、私に謝られてもこまるけどさ……」
 改めて黄薔薇様に向き直る。私は目を逸らすまいと、意思を持って見つめ返す。もしも咎められるのなら、それはあるいは私が望むことなのかもしれないからだ。
 黄薔薇さまは優しく、じっと私から目を離さなかった。初めて目にする、可憐な女性としての黄薔薇さまを見たような気がして、私は少しだけ照れてしまった。
 頭の片隅を古典風にポリポリと掻きながらも、ただ、と付け加えた上で黄薔薇さまが言う。
「別にいいんじゃないかな。その……人を好きになるのは自由だとも思うし。そのことで誰かに気兼ねしたり、遠慮したりする必要は無いんじゃないかな」
「そんなの……っ!」
 漏れてしまった言葉を慌てて押しとどめる。怪訝そうにこちらを伺う女生徒達に、できる限りの冷静を装う。
 そんなの、あるに決まっている。少なくとも、紅薔薇さまは祐巳さんのことを本当に好きなのだから。
 その気持ちを知っている私だからこそ、やってはいけないことがある。無視してはいけない思いがある。その境界を踏み越えてしまうことは、間違いなく『罪』であるとも思う。
「祥子のことを気にしてるんだったら、大丈夫だよ。祥子はちゃんと知ってるし、それに志摩子の気持ちをちゃんと認めてるから」
 (そんな筈は無い!)
「……そんなこと無い、と思ったでしょ」
 皮肉に笑いながら黄薔薇さまが言う。
 私はといえば、言い当てられた恥ずかしさから、必死に感情の昂ぶりを自制するのに必死だった。
「……私、百面相でもしていましたか?」
 胸に手を当てながら、落ち着いた表情を意識しながら言ってみる。
「うん、いいね。志摩子の百面相も」
 黄薔薇さまは私の顔を覗き込むように、正面にしっかりと向き直られて。
「志摩子の、その自分の感情だけを見据えない、冷静な優しさも美徳だとは思うけどね。だけど、時には立ち向かう感情も必要でしょ」
 諭されている気がした。実際、そうなのだろうけど。
「それでも、私には、それは……」
 果てしなく遠い欲望に思えた。加えて、なんて醜く浅ましい欲望に思えた。

 ――許されるはずが無い。
 理論的な意味では無く、本能的な意味で。人間的な意味で。

「……祐巳ちゃんもきっと志摩子と同じ気持ちだから。だから、祥子も認めてるんだよ」
 は?
 今、なんと?
「だからさ、祐巳ちゃんもきっと志摩子のこと好きだよ。……志摩子と同じ意味での『好き』で、ちゃんと志摩子のことを好きだと思うよ」
「え……」
「ああ、私も由乃に気持ちが伝えられればいいんだけどなぁ。由乃に私の『好き』は、まだ理解して貰えて無いみたいだしなぁ……」
 心底残念そうに黄薔薇さまがおっしゃる。


  「……だけど、私の『好き』は……」


 小一時間前の祐巳さんの台詞が蘇る。確かに祐巳さんはこうおっしゃった。
「ごめんなさい、私、行きますね」
 黄薔薇さまにそう言って踵を返す。教室を出るときにはまだ、祐巳さんもいらっしゃった。薔薇の館に向かっているのならすれ違う筈だし、おそらくまだ教室にいるのだろう。
「行ってらっしゃい。……頑張ってね」
 ……なんだか、ちょっと恥ずかしい。

 

      *

 

「ど、どうしたの志摩子さん。会議始まっちゃうよ?」
 祐巳さんが抗議の声を上げる。それでも私は掴んだ手を離さないし、早足のままに校舎を外に出て歩き続ける。
 桜の木々の下。結局この場所以外に私に適当な場所は思いつかなかった。冬の寒さが走る今となっては、芽も吹かない淋しい木々でしか無いのだけれど。
 もう、遠回りなんて、しない。
「祐巳さん」
 心を落ち着けるように、腹を据えて私は確かに言った。
「私――祐巳さんが好きです」
 やっと、言えた。今度は理性も吹っ飛んではいない。心地よくすら感じるちょっとした高揚感が身体を支配している以外には至って冷静に。
 祐巳さんは、驚かなかった。いや、実際には驚いているのかもしれなかったが、普段の祐巳さんが見せる驚きの表情とは、全くの別物だった。
 冷たい風が細く眼に流れた。
 やがて、涙を流した祐巳さんを認めた私は、またひとつ自分の犯した罪を数えた気がした。
 祐巳さんも、黄薔薇さまも。みんな、優しすぎる。
 いっそ、咎めてくれたら、と思う。目の前で蔑んでくれたらと思う。汚いものを見るかのように、あるいは哀れなものを見るかのように。私の総てを、否定してくれたらと思う。
 祐巳さんの涙が、私の涙をどこまでも締め付けた。もう、いいと思った。私は、気持ちを伝えた。祐巳さんに偽りたくは無かったこの感情を、伝えることができたのだ。それ以上に何を望むだろうか。
「祐巳さん、もう――」いいです。そう告げるつもりだった。これ以上彼女の姿を見るのが辛かった。困らせているのは私。苦しめているのは私。もうこれ以上、答えを求めるのは止そうと思った。
「うん、私も志摩子さんのこと――」
 そう言いかけた後に、さらにとめどなくぶわっと祐巳さんの目から涙が溢れた。
「私もっ……! 志摩子さんのこと、好きっ……!」
 そうして私の目からも同じぐらいたくさんの涙が溢れた。止まらない涙と同じぐらいに止まらない感情が私をかっとさせる。私の腕はそのまま祐巳さんを抱きしめる。
 祐巳さんが涙目のままに私を見上げるのを良いことに、私はそのままそっと唇を祐巳さんの唇に重ねる。塞ぎ止める役割を果たしていないから、祐巳さんの唇から驚きの熱い吐息が漏れて、それを感じた私はなお一層感情の昂ぶりを抑えられなくなる。
 やがて少し離れた唇は、向こうから少し潰れるぐらいに押し付けてきた。私がするように、祐巳さんもまた私の身体に腕を回してくる。祐巳さんの暖かい体温を制服の上からでも十分なほどに感じて、さっきまであった冬の寒さなんてもうどこかに行ってしまった。
 唇はまだ離れない。僅かに身長差のある、少し俯きなキス。逆に祐巳さんからは、ほんの少しだけ伸びをしてのキス。
 ようやく触れることができた祐巳さんの肌は、とても柔らかくて、そして繊細だった。私の心は不安で一杯だったのだけれど、唇を離した祐巳さんが息苦しそうにぜぇぜぇ言いながらも微笑んでくれた、それだけで全部吹き飛んでしまった。