■ 第6章−「Epilogue」
「あ、お姉さま。来ましたよケーキ」
祐巳が嬉しそうにおばさんからケーキの乗った皿を受け取る。
いつか祥子と祐巳が訪れた喫茶店。だけどいまはあの時とは違って、もうふたり、大好きな人と一緒のテーブルに座っている。
「む、祐巳さまのケーキ、美味しそうですね」
「ですね。さすがは祐巳さま、ちゃんと詳しくていらっしゃいます」
瞳子ちゃんと可南子ちゃんのふたりが、祐巳の手元に寄せられたケーキをまじまじと見つめながら言う。祐巳は、そんな覗き込むように顔を出しているふたりの額を、えいっえいっと軽く人差し指の先でこづいた。
「今度から、祐巳さま、って言ったら怒るからねっ」
そう祐巳が二人に向かって言ってみせるものの、当の本人が笑いながら注意を促しているのではまるで説得力がない。
「りぴーとあふたーみー『お・ね・え・さ・ま』っ!」
人差し指を立ててそう指導する祐巳を前に、恥ずかしそうにふたりがふたりとも目をそむけて、
「……お姉さま」
「……お姉さまっ」
そう、小さくつぶやいた。
気がつけば、祥子はその風景を見て、いつしか笑ってしまっていた。
それも大きく声まで上げてしまて笑ってしまうのだなんて、いったいどれだけ久しぶりのことだろう。
祐巳を除く三人の首元には、それぞれに同じロザリオが掛けられている。誰ひとり隠そうともせずに、堂々と制服の上から輝く銀色の光。
学校の中でも、祥子も、瞳子も、可南子もそれを隠そうとはしないから、学校中には様々な憶測が飛び交って。
ときには、よくない噂をされているのを、耳にしたりもするけれど。それでも、気になんてちっともならない。
このロザリオの大切な意味は、私たちだけが理解していればいいことなのだから。
向かいに座るふたりのほうを向いていた祐巳が、くるっとこちらを振り返って、優しそうに目を細めながら、
「お姉さま、幸せそうですね」
と言った。
ええ、そうよ祐巳。
私はいま、とーっても幸せなのよ。