■ 8.「甘い果実」

LastUpdate:05/01/08

「ドライブって言うから、楽しみにしてたのにぃ……!」
 じっとしてはいられない。志摩子は自分の中で暴れ回る刺激のそれにくねくねと身を捩りながら、それでも隣の運転席に座る主に当てつけのようにそう抗議の声を上げる。だけど、そんな志摩子の声に優しく答えてくれるようお姉さまではないことは、志摩子自身もよくわかっていた。ただ何も不満を漏らさずにいることができなくて、当り散らすように抗議を上げたかっただけだ。
「んー、志摩子。次のインターで高速下りるよ、覚悟OK?」
「い、いいわけないじゃないですかっ! お姉さまの馬鹿ぁ!」
 半分泣きながら抗議の声を上げる志摩子。だけどやっぱりそんな志摩子に対して、あははは、ってただ笑いながらお姉さまは相手にしてはくれないのだ。
「ふあああっ!」
 運転席のお姉さまが返事をする代わりに、志摩子の足の付け根から繋がったコードの先にあるスイッチをOFFから一気に最強まで上げた。強烈な振動が志摩子の愛液を満たすそこ……よりもやや後ろにある、お尻の中でビィーンと音を立てて呻いた。
 膣の中で動かされるときより、あるいはより直接に強烈に全身に響いてくるその刺激は志摩子の躰を悶えさせる。躰を強く揺さぶる中で、やはりお姉さまの命令で一切何も身に着けていない助手席の志摩子の肌に、直にシートベルトが食い込んでくる。左の乳房の上のほうと、右の乳房の下のほうが、幾度も幾度も強くベルトに擦りつけられたことで真っ赤に変色していた。
「ほら、両手がお留守になってるよ」
「そ。そんなこと、言った……んんっ!」
 お姉さまに促されて、膣のほうに差し入れていた右手の指先の動きを再開する。そうしながら左手で下腹部の辺りを指圧してみたり、乳房や突起を弄んでみたり、あるいは陰核に強い刺激を与えてみたりする。
 高速に上がった瞬間からずっと、志摩子は自分で自分の躰を高ぶらせることをお姉さまから強要され続けていた。手を休めればお姉さまがすぐに警告するし、それでも従わないとローターを急に激しく動かして志摩子を苛んでくるのだ。
 ひたすらに志摩子の指先が触れている陰唇や膣、そして陰核は休み無く延々与えられ続ける刺激に悲鳴を上げている。快感が与えられるほどにどこまでも志摩子の性器は敏感さを増幅していけれど、かわりに性器のそれからひりひりとした痛みも感じさせていく。使いすぎて、休みを求めているのだ。
「はあう……んっ、お姉さま、お願い、お尻のほうだけはっ……!」
 インターを下りる分かれ道をさっき通り過ぎて、目前にまで料金所が迫ってきていた。
「だめー、手を抜いたおしおきだからね」
「そ、そんあはあああっ!」
 声が声にもならない。呼吸困難みたいに息継ぎさえ難しくなって、喘ぎ声さえ上手く出せない。
 数十分も自分を達させ続け、なおかつ手を抜くことも許されないでいると、徐々に絶頂を迎えるという認識が薄らいでいったりもする。例えるならば、ずっと達する直前のような状態、狂おしいばかりの状態の中に陥れられたような感覚になっていく。もちろん躰が達する瞬間は確かにあるし認識もできているのだけれど、達したからといって絶頂感が解らなくなるのだ。そして達しても達しても甘くて痛い痺れと疼きとが開放されること無く蝕み続けて、ただずっと志摩子自身の躰に新しい性的な欲求となって絶え間なく襲い掛かるようになる。
「えーと、千八百円になり……っ!」
 料金所の人は女性の人だった。その人は料金の支払いの為に窓を開けた運転席から志摩子の姿を確かめるなり絶句する。無理もないことだけれど。
「あ、ごめん、幾らでしたっけ?」
「あ、はい、千八百円です……」
「えーと千八百、千八百……」
 後続の車が無いのをいいことに、お姉さまはあからさまに時間を引き延ばす。料金所の女性は確かに志摩子の姿をその視界に納め続けているのだろうけれど、だからといって志摩子には何もできる筈が無い。だいいち、こうしている間にさえ、もちろん志摩子は自分の手を休めることは許されてはいないのだ。それに未だにお姉さまの操作によって志摩子の後ろで激しく蠢かされ続けているローターの刺激も相成って、とてもではないが志摩子は正気でいられなかった。
「あー、ごめん百円足りないや。志摩子百円無い?」
「――っ!」
 よりによって私に話を振る!? 志摩子はあからさまに抗議の目でお姉さまを睨んだが、お姉さまはただ飄々とそれを受け流すのだ。
「こ、後部のっ、んんっ! 座席の財布になら、っ!」
「んー、どれ? わかんないや。志摩子取ってよ」
「んはああっ! そ、そんなっ!」
 それでも志摩子には後ろにある自分の財布を取ることができない。否、取らせてはもらえないのだ。
 お姉さまはああ言っているけれど、ここで志摩子が自分を上り詰めさせるのをを中断して財布を取ったりしようとすると……間違いなく怒るのだ。これはただ、お姉さまが志摩子を困らせるために言っているだけのお芝居に過ぎないのだ。
 だからお姉さまに「取って」と言われても、志摩子の両手はただ陰部に刺激を与え続ける為だけにしか動かされない。それが、どれほど料金所の女性にとっては異常に映るだろうか。
「ああ、すみませんね。どうも志摩子は淫乱すぎるからなあ」
「――ううーっ!」
 さすがに「淫乱」とまで言われると志摩子にだって悲しくて涙が出そうにもなる。だけど、お姉さまが言う「淫乱」の言葉もあながち間違いではないだけに、否定できない。
(淫乱にしたのは誰ですかっ!)
 自分を慰めるのが上手くなったのはいつからだろう。自分で自分を上り詰めさせるのにさして時間を必要としないし、それに何度達しても達しても、それが命令ならずっと自分を苛み続けることができるようになったのはいつからだっただろう。お尻で激しく震えているローターだって、始めは痛いだけの筈だったのに。
 もう志摩子は自分が悲しくて泣きそうなのか、お姉さまの仕打ちになきそうなのか解らなくなり始めていた。
「あ、お釣りです……」
 結局嫌がらせのように一万円札で支払ったお姉さまに女性からお釣りが手渡され、ようやく志摩子は料金所の視線から開放される。それでも、自分の両手の動きとローターとは止められることが無かったけれど、視線から開放されるだけでだいぶ楽になるのだから不思議だ。
 人に見られる、ということを覚えたのもいつからだったか。
 認めたくは無いけれど……誰か他の人に見られると、躰がかあーっとなって疼きや痺れがよりいっそう大きく、そして深いものへとなってしまうのだ。それがまた志摩子の理性を容赦なく奪い、快感だけが自分を縛るようになる。料金所の女性から解放されて、ようやく延々と決して数え切れないぐらいの回数の絶頂を迎え続けて痙攣しながらでさえ、志摩子の中に理性が少しずつ戻ってくる。
「まったく、志摩子はエッチだねえ」
「エッチにしたのは誰ですか! もう、お姉さまなんか嫌いですっ!」
 さっきは心の裡で留めた言葉を、吐き出すようにお姉さまにぶつける。だけどもちろんそんな抗議はお姉さまに届くはずも無い。
「へえ、嫌いなんだ」
 お姉さまは笑いながら、平然と言うのだ。
「あ、え、嘘っ。そ、それだけは!」
「そう言えば、さっきも馬鹿とか散々言ってくれたもんねえ」
 車がウイィーンと無機質な音を立てて、車の左右の窓が全て開いていく。車が外の空気を急いで入れ替えて、志摩子の肌の上を幾重もの冷たい風が擦り抜けて行った。高速のインターを抜けたから、もうすぐそこに市街地が迫っている。
「あ、ごめんなさい、嘘です、嘘ですからあ。大好きですから、お姉さまあ」
 もしこのまま車を走らせ続けられたなら、いったいどれほどの人に見られてしまうのだろうか。それは恐怖感となって志摩子の体を冬の寒さからではない理由で冷たくさせて、同時に期待感となって激しく火照らせた。秘所の疼きもより濃厚なものへとなっていく。
「罰としてホテルまでこのまま」
「ううっ、ふえーん!」
 窓を開けていても、普通いちいち車の中のことなんて気にしない。……気にしないのだろうけれど、町行く人の全てが志摩子をみているような錯覚にも陥ってくる。
 高速を抜けて見知らぬ町とはいえ。志摩子の知っている人なんて誰一人いないとわかってはいても。それでも、やっぱり恥ずかしすぎる……!
「ふあっ! はあ、はああっ! ひううっ!」
 志摩子の中で快感の波がより強く迸る。どこまでも熱くなっていく。私はお姉さまの命じる儘に少しも休ませることなく自分の躰を責め続けながら、ホテルまで果たして私は意識を保っていられるだろうか、とただ自問し続けていた。