■ 01−彼女の旋律

LastUpdate:2007/09/17 初出:web

 物心ついたときには、可愛いものに目がなかった。可愛い小物、可愛いぬいぐるみ。可愛い女子に対してさえ、愛しい気持ちを抱くようになっていた。
 だからといってそれが、恋愛感情を同性に対して向けているものだ、ということにはならない。恋愛小説は好きだし、恋愛小説に描かれる男性像はやっぱり魅力的だと思う。だから可愛い女子のことは好きだけれど、恋愛はいつかの未来に普通に男性に対してするようになるのだと、漠然と私は思っていた。
 ――彼女のことを意識するようになる、その瞬間までは。

 

 

 

 

 柚原真央は春という季節が正直言ってあまり好きではなかった。
 心地の良い気温は好きだけれど、もっとはっきりした季節が好きなのだ。可愛いものは好きだけれど、柔和で曖昧な印象ばかりを残す春はあまり好きにはなれない。熱い日差しの夏や、雪を期待させる冬。寂しい気持ちを抱かせる秋に較べてどうもパッとしないように思うのだ。
 春で好きなことと言えば――桜ぐらいだろうか。
 桜自体が好きと言うよりも、桜が持っている雰囲気が好きだった。たとえば寮から続く道なりには綺麗な桜並木がある。そうした桜の下を歩く、慣れない制服に身を包む新入生たちは、やっぱり特別可愛く見えたりもするものだ。
 だから今みたいな登校の最中には、真央は無条件に倖せな気分になるのだった。
「ごきげんよう、真央さん」
 不意に声が背中から掛けられて、振り向く。
「おはよう、陽菜さん」
 振り返ってから、答える。ああ、本当に――彼女みたいな可愛い人は、桜の下でよく映える。
 声を掛けてきたのは陽菜さんだった。柔和な笑みの彼女につられて、真央も自然と笑顔になる。

 まだ入学して日が浅いから、真央にはこの学校に知り合いも少ないのだけれど。陽菜さんは同じクラスメイトで、かつ同じ寮生。ついでに寮の部屋も隣同士という境遇から、比較的すぐに真央が仲良くなれたここでは数少ない友人だった。
「桜が、お好きなんですね」

 春風に、少しだけ髪をかき上げる仕草をしながら、陽菜さんが言う。
「どうして?」
「だって、真央さんいま見上げてらしたから」
「そう?」
 あまり意識してもいなかったのだけれど。指摘されれば、そうなのかなとも思う。
「そうだね、嫌いじゃないかも」
「ふふ、そんなに好きというわけでもないのですね」
 何が可笑しいのか、陽菜さんはクスクスと小さく笑ってみせる。そんな笑い方仕草ひとつまで、彼女は隙がなく可愛い。
「桜よりも、下を歩く生徒のほうが、可愛くて好きかなぁ」
「真央さんは、可愛いものが本当にお好きですもんね」
「うん。瀬奈さんとか、陽菜さんみたいな可愛いひとと、一緒のクラスになれて本当に嬉しいし」
「わわっ」
 慌てて顔を真っ赤にして、バタバタと両手を顔の前で振る陽菜さん。
「ま、真央さんが言うと、洒落になりませんよぅ」
「洒落って?」
「その、ですから……本気にしてしまいそうに、なります」
 はぁーっ、と陽菜さんは大きなため息をひとつ。
「別に、嘘で言ってるつもりは無いんだけれど」
「それは嬉しいですが……別に同性の方がお好き、というわけでは無いのでしたよね?」
「うん」
 それは事実で、以前にも陽菜さんに訊かれて、そう答えたことがあったから。だから真央は訊いてくる陽菜さんに、素直に頷いて答えた。
 別に同性を愛することを、変だと思うわけではない。真央自身はまだ、恋らしい恋もしたことがないけれど。幾つかの小説から学んだ「恋する」感情からするなら、それは決して異性間に限ったことではないように思うのだ。
「この学校には、少なくないらしいけどね」
「……そうですね」
 真央がそう言うと、少しだけ淋しそうな声で陽菜さんは答えた。
 朱女こと、朱苑女子学院には実際そうした親密な関係になる生徒たちが少なくない。何しろ恋人同士であることを公言している生徒さえ、決して少ない人数ではないのだ。

 噂話にはあまり詳しくない真央でも、一部の生徒達がその証として身に付けているチョーカーの意味さえ知らない程疎くはないのだ。
「私には、少しだけそういった気持ちが判る気がします」
「そうなの?」
 コクンと、陽菜さんは頷いて答える。
「だって……真央さんみたいな、格好いい人になら。好きになる気持ちだって、判りますよ」
 そう言ってくれる陽菜さんの少しだけ朱に染まった表情は、とても可愛いらしくて。

 どちらかといえば真央のほうこそが、同じ言葉を返してあげたいぐらいだった。陽菜さんみたいな可愛い人を好きになる気持ちなら、私にもよく判るように思えたからだ。

 

 

 


 特に部活動にも入っていないのだけれど、最近になって放課後の楽しみがひとつだけ増えた。
 それは陽菜さんにではなく、陽菜さんの寮のルームメイトの坂下瀬奈さんに聞いた秘密。

 ううん……本当は秘密なんて言うほど大それたものではないのだろうけれど。


 私たち一年の教室からはいちばん遠くて、どの学年の教室からも遠い東校舎三階の第三音楽室。殆ど使われていないらしいその音楽室からは、放課後になるといつも綺麗な旋律が聞こえてくる。
 瀬奈さんから聞く話では、演奏しているのは他でもない陽菜さんとのことで。陽菜さんが個人で立ち上げた「ピアノ部」は、吹奏楽部と合唱部に第一・第二音楽室が取られているせいか、離れた第三音楽室を利用しているらしいのだ。

 

「お邪魔します……」
 まず中には誰も居るはずがないと、判っていながらも。ドアを開けながら、真央は誰にともなく部屋の中へとそう声をかける。

 ここは、第二図書室。陽菜が使っている第三音楽室の、ちょうど真下にある部屋。
 少しだけ埃っぽいのが難点だけれど、普段から誰も利用する人は居ないから、旋律に身を委ねてくつろぐには最適の場所。ここにいると陽菜の旋律はまるで空から降るかのように幻想的に聴こえてくる、真央のお気に入りの場所。

 真央はいつも放課後になると、ここで陽菜の演奏に静かに聴き入るのが密かな楽しみだった。
 始めの頃は東校舎と西校舎とに挟まれた中庭で、放課後は彼女の音楽に耳を傾けていた。だけど雨が降れば中庭には出られないし、それに西校舎の吹奏楽の音が邪魔をしてくるものだからどうしてもピアノは聞き取りにくい。

 そんな事情で他に良い場所を探すうちに、真央はこの図書室へ辿り着いたのだった。
 図書室とは名ばかりの、貸し出しカウンターも存在せず利用客もまるでいない、古ぼけた書庫。古書と資料ばっかりが埋め尽くす書庫には興味を持たされる本もまるで見あたらないけれど、元々読むことに興味がない真央にとってはどうでもいい話だった。
 後から建設された真新しい西校舎と違って、東校舎はどこか老朽を感じさせるけれど。そのおかげか、上の階で奏でられる陽菜の旋律は薄い床だけを隔ててそのまま真央の元へと伝わってくる。窓を閉め切るだけで、心地良いぐらいに音が反響する陽菜専用の特別音響室の出来上がり。

 陽菜がいま演奏している曲は、流行の女性歌手が歌う歌謡曲だった。クラッシックばかりに囚われる面白げのない吹奏楽部とは違って、陽菜の演奏は曲を選ばない。例えば陽菜にCDを貸したりした翌日なんかには大抵その曲を弾いていたりするし、この間瀬奈さんと三人で映画を見に行った翌日には、やっぱり映画のテーマソングを弾いていたりする。

 クラッシックなんか全ッ然わからない真央にも十分耳に馴染んで楽しめるし、歌謡曲なんかだと真央もつられて一緒に歌ってしまっている、なんてことも多かった。
「――――♪」
 今日も、真央は彼女の演奏に合わせて、静かな声で口ずさむ。
 恋愛の熱情を熱く歌い上げるような流行の曲でさえ、彼女の指先に奏でられると特別な旋律になるのがとても不思議。それがピアノの魔力なのか、陽菜の魔力なのかは判らないけど、しっとりと落ち着いた柔らかな旋律は心にもしんと馴染んで、温かな心地良さで響いてくる。
 何曲か続いて演奏された曲はどれも真央がよく知っている歌謡曲や合唱曲ばかりで、意識もせず自然と真央が口ずさむ歌は音量を増している。誰に迷惑を掛けるわけでもないから、別に気にもしないのだけれど。
 歌っていると、窓の外の景色が徐々に橙に澄んでいくのが見えてしまう。冬の落日はどうしても早いから、夕焼けに空が染まるのもまた早い。これだけ空が染まっているのだから、いま演奏している曲で陽菜は今日の演奏を終えてしまうだろう。いままで何度も陽菜の曲をこうして聴いてきた経験から真央にはそれが判るだけに、真央には少し残念に思えた。
 真央の心に静かな余韻を残して、やがて陽菜の演奏が終わる。

 この曲で終わりだと思って、真央は図書室の座席から立ち上がる。けれど予想に反して、休憩も挟まず陽菜のピアノは続けざまに次の曲を演奏し始めた。
 いままでのリズミカルな歌謡曲とは一転して、ゆったりとした耳に残る曲調はどちらかといえばジャズのように聴こえる。やがて前奏を終えて演奏が歌の部分にまで差し掛かると、ピアノが伴奏と一緒に奏でるメロディラインで、真央にもその曲がようやく理解できた。
 ――その曲の名前は、“Blue Moon”という名曲。
 ジャズにはあまり詳しくない真央だけれど、とても有名なその曲はよく知っていて。最後に聞いたのは何年ぶりなのか判らないぐらい昔のことだと思うけれど、すんなりと歌詞は頭の中に思い出されてくる。

 

 

 

 

  - Blue moon,
   You saw me standing alone,  一人佇む私のことを、あなたは見抜いているですね
   Without a dream in my heart  叶えたい夢ひとつ、私の胸にはなく
   Without a love of my own.   愛したい人さえ、私にはいないことを。

 


  - Blue moon,
   You knew just what I was there for  私が待ち侘びているものを、あなたは知っているのですね
   You heard me saying a prayer for   私の祈りを、聞いていたのでしょう
   Someone I really could care for   “心から愛することができる人を”と

 

 

 

 

 

 古い歌を口ずさむ傍では不思議と、自然に陽菜の顔が浮かんできた。
 どうしてだろう。判らないのに、まるで彼女の心情か、あるいは私の心情を歌い上げているかのように。懐かしい歌は、心にそのまま沁み入ってくるみたいに。

 

 

 

 

  - And then there suddenly appeared before me    すると突然私の前に現れてくれた
   The only one my arms will ever hold       私が愛したいと願う、運命の人
   I heard somebody whisper, please adore me    “愛していいよ”と赦すささやきに
   And when I looked, the moon had turned to gold  見上げた月は、金色に変わっていて

 


  - Blue moon,
   Now I'm no longer alone    私はもう、孤独などではない
   Without a dream in my heart  夢さえ抱けなかった私は、もういない
   Without a love of my own.   愛を知らなかった頃の私は、もういない

 

 

 

 

 

 ――真央が歌い終わるよりも先に、不自然な形でピアノの演奏は途切れた。

 

(どうしたのだろう……)

 色濃くなった夕焼けの中で、不思議に思う気持ちもまた、色濃いものになっていく。
 ――いつもなら演奏される筈がない、夕暮れのアンコール。クラッシック以上に、滅多に彼女が演奏することがないジャズ。そして終わり際にまで差し掛かって、急に中断された演奏。

 なんだか不思議な予感がして、そわそわと心が落ち着かない。


 やがて、その予感が正しいかのように。

 ガラガラッと、真央の目の前で勢いよく図書室のドアが開かれる。


「……陽菜、さん」
 そこに見える姿は、他でもない陽菜さん。
 彼女の姿をそこに見て、真央は驚きの気持ちではなく(やっぱり)と、どこか得心めいた気持ちになる。なぜだかそんな予感がしていたから、不思議なぐらいに真央の心は落ち着いていた。
「言わないと、心に決めていたことを――私、言ってしまいます」
「陽菜さん……?」
「“Blue Moon”は、私の気持ちそのものです。……私、ほんの少し前までは、好きな人なんていなかったのに」
 その瞬間、陽菜さんが言わんとすることが真央にも伝わってきたのだけれど。真央はまだ、そのことを口にしなかった。

 私が陽菜さんのことをどう思っているかなんて、私自身判らない。それでも――彼女の口から、その先を聞きたかった。
「真央さん……。私、あなたのことが……」
 コクッと、喉が鳴る。真央は静かに、途切れた陽菜の言葉の続きを待つ。

 本当は彼女の気持ちには――とうの昔から、気づいていたのかもしれない。
「あなたのことが……好き、みたいなんです……」
 静かな言葉。けれど、はっきりと。
(ああ……)
 陽菜さんの口から直接聞かされて。
 ゆっくりと静かに、けれどはっきりと。理解されていく確かな心が真央の中にあった。
「わたし、も……」
 理解してしまえば――ああ、なんて簡単で単純な感情なんだろう。
 こんなにも判りやすい熱を持つ心に、どうして今の今まで気づけないでいたのだろう。そのことが真央自身、不思議で堪らなかった。
「私も陽菜さんのことが、好きみたい」
「――嘘!!」
 心から告げた、真央の素直な気持ちだったのだけれど。

 陽菜さんはすぐに、真央が言った言葉を拒絶してしまう。
「――だって、真央さんそういう趣味じゃ無いって言った! 同じ性別の人なんて愛さないって、男の人が好きだって言ってたじゃない!」
「そう、なんだけれど……」
 それは確かに陽菜の言う通りで、どう説明していいものか真央にはすぐに判らない。
「だから私、諦めるしかないんだって……! 真央さんのことが、誰よりも好きなのに……そのことを、真央さんに言えなかった……」
 殆ど泣き乱しながら、けれど切に訴える彼女の言葉に、軋むように真央の心はきりきりと痛む。陽菜さんが泣いていて、陽菜さんを悲しませているのは他ならぬ私で……陽菜さんが泣いているとまるで自分のことのように、真央も泣きたいぐらいに痛切に心が苦しみ呻くみたいだった。
「ごめん、陽菜さん……私、やっぱり同性愛者ではないけれど」
 でも、と真央は続ける。
「――どうか、信じて。それでも私、陽菜さんのことが」
「ああ……っ!」
 彼女が泣きじゃくる声は、より一層強くなる。

 真央の袖に縋り付く力もまた、より一層強いものになった。
 ……真央にはただ、彼女が泣き収まるのを待つしかできない。
 不器用な私は慰めの言葉も、優しい嘘も持ち合わせてはいない。伝えられる言葉は、ただ事実と真実だけ。真央にできるただひとつのことは泣いている彼女を受け止めて、それでも彼女の告白でようやく気付かされた真央の真意を、彼女に信じてもらうしかなかった。

 

 

 


「……もう、いいの?」
 真央が訊くと、少し逡巡してから陽菜さんはこくっと頷く。
「すみません、泣いたりして」
「そんなのは別に、全然。……泣いてる陽菜さんも可愛かったし」
「うう、忘れて下さい……」
「どうして? 好きな人の泣き顔を可愛いと思うのは、いけないことなの?」
 素直な気持ちから真央はそう口にしたつもりだったのだけれど。
 驚きとも疑念ともつかない瞳で陽菜さんに見返されてしまうと、ちょっとだけ怯んでしまう。
「本当に……信じて、いいんですか?」
「うん」
 思えばそれとなく陽菜さんに気持ちを訊ねられるたびに、同性を愛する気持ちなど無いと否定してきたのだった。訊いてくる陽菜さんの気持ちも知らず無思慮に拒絶し続けていた日々を思えば、簡単に信じてもらえるようなことではないと判っている。……判っているけれど、それでも信じて貰うしかない。信じて貰う他には、ひとつさえ彼女に心を認めて貰うやり方など、ありはしないのだから。
「信じてもらえないと、私もどうしていいか……」
「わわっ、ごめんなさい。信じます、信じますからぁ」
 ちょっと狡いと判っていながら、そんな風に陽菜さんに言わせてみせる。
 彼女が私を信じられないのはあまりにも無理がないことで。だったらせめて真央のほうからだけでも、自分なんかを好きだと言ってくれる陽菜さんの気持ちを信じてあげるしかなかった。
「ホントに?」
「はい。……真央さんが信じてって言うなら私、嘘でも絶対に信じますからっ!」
「嘘じゃないんだけれど……ま、いっかあ」
 陽菜の躰を傍へと抱き寄せる。

 天使の様に軽い躰は、真央が望むままに引き寄せ、抱き留められた。
「私がこの先ゆっくり時間を掛けて、証明してみせればいいんだよね」
「真央、さん……」
 焦っても何もいいことはないのだと思った。本当は、もちろん今すぐ彼女に信じ直して欲しいとも思うのだけれど。
 一度失った信頼を積み上げるのは難しいし、とんでもない労力が要るのだろう。それでも陽菜さんのためなら、努力する価値がある。
「どうしよう……倖せすぎて、死にそう……」
「死ぬ、だなんて……」
 そんなこと言わないで、と僅かに口にしかけながら。だけど真央自身もまさしく同じような気持ちだったから、彼女の気持ちが痛いぐらいに判った。
 それは決して自惚れなんかじゃない。正直に自分の気持ちと向き合えた今だからこそ、正面から彼女が寄せてくれる気持ちを理解することができる。彼女が抱く、痛いぐらいの慕わしい気持ちを確かに感じることができるからこそ、それに心底応えたいと願ってやまない自身の心もまた。
「……では、ひとつだけお願いが」
「うん、何でも言って。何でも、陽菜さんにしてあげたい」
「えっと……ごめんなさい、たったいま願い事は二つに増えました」
 舌をちょこっと出して、可愛らしく微笑む陽菜さん。
 ううん、それはもう「可愛らしい」なんていうものじゃない。そうした彼女のあどけない表情や姿ひとつが……ただ無邪気でいて、どんなにも愛おしい。
「私を……さん付けにしないで下さい。陽菜、って呼んで下さい」
「うん」
 陽菜さんが。違う――陽菜が。
 そう求めてくれることが、嬉しい。
「陽菜」
 愛しい人の名前を、呼ぶ。
「……陽菜」
「……真央さん」
「うあ」
 さすがに呼び返される呼称が、期待していたものと違いすぎていて。かくっと、真央は大きく肩を落としてしまう。
「それは、さすがに狡くない……?」
「……えへ」
 えへ、だなんて可愛く言われても、真央もさすがにここだけは譲れないから。
「陽菜も。真央、って呼んで」
「……はい」
 真央が改めて求めると、陽菜もコクンと素直に頷いてくれる。
「真央……あなたが、好きです」
「うん。私も、誰よりも陽菜のことが」
 お互いの呼称が名前そのものになるだけで、愛している想いを伝えることの敷居はぐっと下がったようにも感じられる。好きと言ってくれることが嬉しくて、同じぐらい陽菜に好きと言えることが嬉しかった。
「もうひとつは?」
「あ、あのですね……」
「何でも、言って」
 陽菜が望んでくれる総てのことに、ただ応えたい。
「キ、キスして欲しいな……なんて」
「――それは、少し勇気が要りそうだね」
 陽菜との、キス、だなんて。
 想像しただけでも、心が煮沸してしまいそうだ。
「そ、そうですよね。……私も、自分からする勇気は無かったり、なんて」
「でも、それで陽菜の信頼が得られるなら」
 ずずいっと、顔を陽菜の傍へ近づける。
 口吻けは、告白以上にいよいよ恋愛へ堕ちていくきっかけを意識させる最大の行為で。私たちは急にお互いの気持ちを確かめ合って、急にキスをしたいような仲になったものだから。真央の心にはまだ焦りと、そして少しの不安がどうしても存在を主張してきてしまう。

 口吻けを交わすことは、いよいよ逃げられない場所へと自分たちを追い込む行為。追い詰められたい心と、追い詰められることにまだ不安な心とが、愛しい気持ちを幾重にも確認した今でもまだ静かに鬩ぎ合っている。
 でもそれは陽菜も同じこと。陽菜が小刻みに躰を震わせながら、それでも瞳を閉じてその瞬間を待っている。健気なその陽菜の姿に、真央も応えなければいけない。待たせれば待たせた分だけ、彼女の心の不安は大きくなるだろうから。
「……」
 お互いの呼吸が一瞬止まる。二人きりの空間からは息遣いを始めとした総ての音が消え去って、静かな静かな世界の中で私たちはそっと唇を重ね合わせた。
 唇はやがて離れる。口吻けそのものにはなんの快楽を導く効力もない。それでも、沢山の気持ちが確かな感触で交わり合った唇を通じて、たくさん伝わってくるみたいだった。
「あ、あ、あ、あ、あのっ。む、胸、にっ……!」
「うん、ごめん……」
 キスをする最中に、真央は密かに陽菜の胸元に右手を伸ばしていた。
 目を閉じている陽菜に、不意打ちのように制服の上からあてがっていた右手。キスの感触もさることながら、真央以上に幼く、けれど服の上からでもちゃんと柔らかな陽菜の乳房の感触と少しだけ冷たい温度が、確かな記憶として真央の掌に残っている。
 キスは快楽を何一つ生み出さない。だけどキスはその後に続く性愛をリアルに予想させてしまうものだから、無防備な彼女のその場所に真央は触れてしまっていた。
「胸に、さ、触りたい……ですか?」
 陽菜にそう訊かれて、一瞬躊躇う。けれど正直に頷いて、真央は答えた。
「で、では、どうぞ……」
「……いいの?」
 恥ずかしそうに俯きながら、けれどはっきりと陽菜が頷いてくれる。
 許しを得て、再度陽菜の乳房にあてがう掌。僅かな圧力を掛けて感触を楽しんだり、少しだけ撫ぜるようにしながら制服の上からではよく判らない乳房の形状を感じ求めてみたりする。
「……はあっ……」
 艶めかしい声が陽菜の口元から零れ出てきて、それに気付いた陽菜は慌てて両手で口元を覆う。
「はわわっ! い、今の声は聞かなかったことに!」
「う、うん」
 口元から両手を離しても、声を出してしまわないようにだろうか、まるで真央の掌の感触に抗うみたいに陽菜はふるふると目を閉じて細かく躰を震わせている。止めてあげる方がいいのかな、と真央は一瞬思うけれど、それでも耐えようとしてくれている陽菜の気持ちが嬉しくて、静かな感触で彼女の胸元に触れ続けた。
「私の胸なんかに触って、楽しいんですか……?」
「うん、楽しい……かも」
 まるで夢の中のことであるかのように不確かにしか感じられないキスとは違って、彼女の胸に触れる行為はリアルに彼女自身と繋がっている実感を真央に抱かせた。愛しい人が赦してくれて、自分を受け入れてくれているという確かな事実。それが、真央にとって嬉しくない筈がない。
「陽菜……」
「はい?」
「知らなかった、私は……結構、卑怯な人間かもしれない……」
 キスは性愛への入り口。そして彼女の乳房に触れる行為は、性愛へ確実に一歩踏み出した証。

 そこまで来てしまったなら、もうそれ以上を求めないでいることなんて、できなかった。
「陽菜が私を拒めないって判ってて、それでも……」
「は、はいっ」
「ごめんね。……制服が邪魔なの。陽菜の胸に、直接触りたい……」
「……!? は、はわわわっ!」
 愛している気持ちを伝え合うことは、そのまま自分の最大限の弱みを相手に握らせ合うことに等しいのかも知れない。きっと大好きな陽菜に望まれたなら、それがどんな真央は何でも叶えずにはいられないだろう。そして逆に真央が望んだ場合もまた……。
「ず、狡いですっ」
「うん、狡いよね……」
 判っているだけに、陽菜の言葉に真央もただ頷くしかない。
 こんなにも自分が卑劣な人間だなんて、知らなかった。相手が自分に向けてくれる好意を自覚することは、イコール相手の心を盾に好きにしてしまっていいということにはならない筈なのに。
 嫌われたかも、という気持ちが少し沸いて。陽菜の表情をそっと伺い見る。怒ったり、幻滅したりしていても無理はないのに、陽菜の表情は……不思議と、どこか嬉しそうにも見えた。
「でも本当は……私がしてほしいと思っている通りに、狡くなってくれる真央が……」
 そんな風に、笑顔で応えてくれることがどんなにも嬉しい。
 いちど二人の距離が離れて、陽菜がワンピースの制服をもぞもぞと脱ぎ始める。
 図書室よりも外の雑音は、もう二人には僅かにさえ聞こえはしない。二人きりの静まりかえった世界の中で、陽菜が奏でる衣擦れの旋律だけが、唯一のリアルとなって真央の耳に届く。
「うう、なんだか少し、寒いかも……」
 確かに、言われてみれば今日は少しだけ肌寒い気がする。
 夏もそう遠くはないはずなのに、まるで春先の頃を思わせるような涼しさ。真央にさえそんな風に感じられるのに、まして制服を脱いで下着とキャミだけの姿になった陽菜にはなおさらだろう。
 彼女の躰が小刻みに震えている。やめてもいいよと、今すぐ言葉を掛けてあげたかった。
 ――でも、それはできない。半分は、自分なんかの為に無理をしてくれる陽菜のため。もう半分は自分の為に無理をしてくれる、陽菜の姿を確かめたいという真央自身の心のために。
 キャミソールが静かに脱ぎ畳まれる。

 古ぼけた書架に囲まれた中で、扇情的な陽菜の姿だけが特異にも見える。
 上下の下着だけになった陽菜の躰は、隠されている部分よりも露わになっている面積の方が余程多い。陽菜の大事な部分だけを的確に覆う下着姿は、却って真央にとっては心を煽られるかのような魅力的なものに映る。
「……んぅ……」
 制服を介さず、下着姿で座り直した椅子の座面が思いのほか冷たかったのだろう。陽菜の喉からは静かな声が漏れる。
 熟れている果実を思わせるほど真っ赤な陽菜の表情は、見ていて心苦しいほどで。そんな陽菜の指先がブラにまで掛かって……そこで静止していた。
 陽菜の不安や心許なさが、真央にも痛いほど伝わってきていた。
 指先の震えは、見ていて心が痛むほどで。無理をして欲しいという気持ちと、無理をさせたくないという気持ちが真央の中で幾重にも鬩ぎ合う。そして、とうとう私は――。
「もし、怖いなら……」
「――いいえ!!」
 止め掛けた真央の声は、静寂を劈くような陽菜の拒絶で打ち消される。
 とても強い拒絶の言葉。そこに陽菜の強い意志が見えたようで、もう真央には何も言えなくなってしまった。
 張り詰めるような緊張感の中で流れる、静かな時間。ゆっくりと時間を掛けて、陽菜はなおも震えている指先のまま器用に、ブラを胸元からそっと落としてみせる。
 陽菜の白い肌よりもなお白く、透けるような硝子を思わせる未成熟な乳房が露わになる。
 気持ちを確かめ合っていても、きっとずっと恥ずかしいはずなのに。

 こんなにも無理をして、応えてくれる陽菜が。今はどんなにも、真央には愛おしかった。
「すみません……あまり胸には、自信がないのですが」
「……可愛くて、私は好き」
 彼女の潔癖な素肌に、そっと手を伸ばす。真央の冷えきった指先が陽菜の肌に僅かに触れると、それだけで小さく身もだえするように陽菜は躰を震わせた。
「はぅ……」
 そっと確かめるように、静かに彼女の胸元に触れる。

 真央の手の冷たさと同じか、もしくはそれ以上に冷えた陽菜の乳房。優しく扱わないと、壊れてしまいそう。繊細な美術品を愛でるように、陽菜の乳房にそっと指先を這わせる。
「……は、あっ……」
 熱気を帯びすぎた陽菜の吐息は、白く濁りながら春の空気に透ける。
 陽菜の乳房は青磁のように滑らかでいて、同時に赤ちゃんの肌のようなしなやかさで真央の指先に応える。心に確かなものとして灼き付けようと、真央が幾重に指先を求め蠢かすたびに、陽菜の口元からは熱い吐息が漏れ出てきた。
「もしかして、感じている?」
 真央が直球にそう訊くと、陽菜は否定も肯定もできずに、少しだけ困った表情を返してくる。
「正直……よく、わかりません……」
「そっか」
 さわさわと乳房を愛撫する都度、陽菜の喉元から零れる僅かな声と確かな吐息。ただの擽ったさや心地の悪さからなのか、それとも……。
「や、あっ、真央、さん……」

 手のひらで触れるだけでは飽き足らず、真央はそっと陽菜の乳房の先端にキスをする。
「ふぁふへひはいほ(さん付けしないの)」
「ふぁぅ……! しゃ、喋らないでくださいっ……」
 乳房の先端、薄桃に染まる突起を口に含ませながら。
 吸い付いたり、舌の先で陽菜の乳首を転がすようにすると。声にならない声が、喉から零れる。
「ん、ぁ……ぁ……」
 それが楽しくて、私はより執拗に舌の先端で彼女の乳房を求め這わせる。乳房に吸い付きながら見上げる彼女の表情は、ぎゅっと瞑られていて。耐えている陽菜の表情が、やっぱり嬉しくて。
 指先で、掌で。そして唇で彼女の乳房を求め尽くすと、すぐに真央はそれ以上に陽菜を求めたい気持ちに駆られてしまう。
(……これだけ、陽菜は応えてくれたのだから)
 十分すぎて、これ以上求めるのは酷だと思う心。
 その先を求めてしまうのは、ただの焦りすぎでしかないという理性の警鐘。その二つの気持ちがあって、より陽菜を求めたいという気持ちを真央は口に出すことができなかった。
「真央」
 さん付けではない言葉は、名前を呼ぶそれだけで鋭く真央の心に響く。
「……どうか私に対して、心を抑えないで……」
 陽菜が、真央の心を総て見透かした上で、そう言ってくれる。
 赦してくれる。そのことが嬉しく、そして……怖くもある。
 陽菜に赦されてしまえば、際限なく貪欲になっていきそうな自分の姿が垣間見えるようだった。

 真央がその恐怖を素直に陽菜に打ち明けると、陽菜は。
「遠慮されることのほうが……私には、怖い」
 と、真央の怖れを一蹴してみせるのだった。
「でも私、陽菜のことを壊してしまいそうで……」
 これ以上心の儘に求めてしまうことを自分に赦してしまえば、二度と歯止めがきかなくなってしまいそうな恐怖がある。――陽菜を、愛したい。愛する行為は決して優しいことばかりじゃなく、乱暴な要素も多いことを理解はしている。それでも、大切な陽菜を性愛のためとはいえ、乱暴に扱うようなまねはしたくないのに。
「……いいじゃないですか。壊されても私、構いません」
「陽菜……」
「だって――きっと真央さんは、責任を取ってくれるんでしょう?」
 陽菜の唇から静かに紡ぎ囁かれた、責任、という言葉が。
 とても甘い単語として、真央の心には捉えられる。
「うん、責任は取る、取るよ。――取りたいんだ」
「でしたら、真央は何一つ遠慮なんて。……遠慮なんて、して欲しくないんです」
 歓喜のあまりに、真央は今にも泣き出してしまいそうな気持ちだった。
「あとで後悔したって、知らないんだから」
 真央が挑発するようにそう言うと、陽菜もまた溢れんばかりの笑顔で応えてくれる。
「ふふ、真央さんに、後悔させるだけのテクがあるんですか?」
「言ったな? ――もう知らないんだから」
 陽菜が座る椅子の後ろ側に、真央は回り込む。
 背中から陽菜の躰に伸ばす両手。乳房を少しだけもう一度撫でてから、つつっと指先は陽菜の躰に沿って下の方へと降りていく。
「……ぁ、ぁ、ぁ……」
 真央の指先が腹部を辿り、お臍よりもさらに下りていくに従って、陽菜の口元からはたどたどしい声が漏れ出てくる。どこか萎縮した陽菜の声を聞いても、もちろん私はもう躊躇したりしない。
 辿る指先は、すぐに薄い布地に辿り着く。上靴と靴下を除いては、陽菜が身に付けている唯一の衣服。
「ああっ……!」
 そのショーツの中へと、静かに真央は指先が侵入させていく。陽菜が恥ずかしさのあまりにか、思わず顔を両手で覆って隠した。
 布地の中に入った真央の指先は、夥しいほどの熱気を感じ取った。ショーツに包まれた陽菜の下腹部は、触れるだけで彼女の躰のどの部分よりも直接に熱を感じさせてくる。真央が侵入した指先を秘部に近づけていくに従ってなお、熱気はさらに強まっていく。
「……ふぁ……」
 切ない嬌声が陽菜から漏れたのは、とうとう真央の指先が陽菜の大事な部分に触れたことを示していた。柔らかな包皮に包まれた、柔らかな部位。そこに触れることがどれだけ儘ならない感覚を躰に及ぼすかを、真央は経験から知っている。
「ぅ……」
 押し殺したような声は、陽菜がぐっと堪えているのかもしれない。そうなると陽菜の声が聞きたくって、意地悪な指先はさするように優しく陽菜の秘所全体を愛撫する。
「はぁう……!」
 艶めかしい嬌声が漏れ出て。陽菜が慌てて口元を押さえるけれど、それで上げてしまった声が取り戻せる訳じゃない。
「……嬉しい。陽菜、感じてくれてるんだ」
「あ、当たり前じゃないですかぁ……」
「じゃあ、声、我慢しないで。陽菜の声を、聞かせて」
「うぅ……」
 真央が望んだなら、それがどんなに無茶でも陽菜は抗うことができない。真央もそれが判っていてお願いするものだから、余計に性質が悪い。
 まだ僅かにさえ陰毛の無い、陽菜の秘部へと優しく這わせる指先。敏感な箇所に指先だけを軽く触れあわせたり、陽菜の中へといつでも侵入できることを入り口で誇示するだけの緩い愛撫。
「……ぅ、は、ぁっ……」
 それだけでも、物憂げな声が陽菜の口元から漏れる。真央が声を塞ぐことを禁じたものだから、閉じられない陽菜の唇の隙間から奏でられる、扇情的な彼女の旋律。どんな調べよりも艶めかしいそれが、真央からもどんどん理性を失わせていくかのようにも思えた。
「陽菜……脚、閉じちゃダメ……」
「は、はい」
 もちろん陽菜は、拒むことができない。無意識にかも知れない、陽菜がしていた脚を閉じるという微かな抵抗。それさえも真央が言葉で禁止してしまえば、陽菜は拒絶できない。
「ふぅう……!」
 一際熱い吐息が図書室に溶ける。陽菜の中に真央の指先が、少しずつ探るように侵入していく。
 熱く濡れそぼつ陽菜の蕾が、確かな指先の感触で判る。そうなると陽菜のその部分を、指先だけでなく実際に見てみたくなるもので。
「陽菜……コレ、脱がしちゃ、だめ?」
 真央がそう言うと、陽菜は少しだけ渋い顔をする。
「私に『ダメ』だなんて……言えると思ってないくせに」
「それは、そうなんだけどね」
 陽菜に言い当てられて、真央は苦笑する。つられて、陽菜もまた僅かに微笑んでみせた。
「狡い私は、お嫌い?」
「いいえ」
 ふるふると、首を左右に振って陽菜は否定する。
「もっと……もっと狡くなって、構いません。もっと私を、真央さんの好きにして」
「うん」
 陽菜の意志を受け入れる証拠に、軽く陽菜のうなじに口吻ける。
 真央は椅子の後ろ側から手を伸ばして、腰を浮かせた陽菜のお尻からするするとショーツをずり下ろしていく。
「ぁ、ぁ、っ……」」
 声は甘く。息遣いさえ甘く。
 最も大事な箇所を覆う布地を脱がしてしまう間中、陽菜の唇から零れる甘い囁きが、まるで真央の脳を溶かしてしまうようだ。
 陽菜の踵の近くまでショーツをずり下ろすと、真央は正面側に回り込んで陽菜の踵からそれを取り払う。陽菜の蜜を十分に吸収した下着は、冷たく湿っていて僅かな重さを感じさせた。
 真央の目の前に、殆ど全裸の陽菜の姿がある。陽菜は裸になったいまでも律儀に真央の言いつけを守って脚を閉じることはしなくて、真央の視界には陽菜の大事な部分が容易に捉えられていた。
「いっそベッドでもあったら、押し倒せるのに」
「私も……今は、そうされたい気分かも……」
 こんなに埃っぽい部屋の中で無理に陽菜を押し倒すわけにもいかなくて。
「真央と、寮が同じ部屋だったらよかったのに……」
 陽菜が言ってくれた言葉に、コクコクと真央は力強く頷く。
 ――本当に。

 もしそうなら、陽菜のことをいつだって、愛することができるのに。
「あ、そうだ」
「うん? どうしたの、陽菜」
「ベッドじゃないですけれど……上の音楽室の準備室には、ソファーがありますよ」
「おー、いいねえ」
 どちらにしても、この埃っぽい図書室で続きをするのは躊躇われていたから。陽菜の提案は格好のもので、真央はすぐに承諾する。音楽室なら部長の陽菜が鍵を管理しているから、他人が入ってくる余地もありはしない。
「……あの、真央?」
「うん?」
「どうして移動する今になって、その……靴と靴下を、脱がすの?」
 真央がそそくさと椅子に座る陽菜の足から脱がしてしまうと、いよいよ完全に陽菜が身に付けている物はなくなってしまう。陽菜の躰と同じぐらいに、素足もまた真央の欲情を駆り立てた。
 生まれたままの陽菜の姿がある。小さな陽菜の身ひとつが、こんなにも愛おしいなんて。
「私たちは……エッチしに、今から上に行くんだよね?」
「あ、はい。それはそうですが……」
「じゃあ、余計なものは要らないでしょ?」
 窓の外を見ると、かつての夕焼けはもう殆ど闇に包まれてしまっていて。薄闇の中に僅かに滲む橙だけが残る空は、まだ夜が幾らか早い春とはいえ、それなりの時間であることを物語っている。
「ま、まさか……!!」
 空を見やる真央の様子で、ようやく陽菜は真央がしようとしていることを悟ったらしい。今まで真央が望むもの総てに対し、ただ従順に従っていた陽菜でさえ、いやいやと首を左右にぶんぶんと振って拒絶する。
「で、できるわけないです! 幾ら、真央さんの言うことでも……」
「陽菜、さん付けに戻ってる」
 焦る陽菜が可愛くて、愛おしいと思う。
 大切にしたいとも思う。思うのに……真央の心にはいつしか、陽菜に対して「無理」を求める心が形成されつつあった。
 真央は、身勝手に「無理」を陽菜に求めて。陽菜は、真央に対し「無理」をして応えてくれる。少しずつ出来上がり始めていたそんな関係に、陽菜がどこまで応えてくれるのか……勝手な気持ちだと知りながら、真央はそれを陽菜に試してみたくなったのだ。
「陽菜が、どうしてもダメって言うなら、無理強いはしないよ」
 そう前置きしてから。
「……陽菜、お願い」
 そんな風にも、囁く。
 言いながら、陽菜が応えてくれるはずがない、と想う気持ちも確かに真央の中にある。

 ――そんな風な真央の気持ちさえも、彼女に吹き飛ばして欲しいと望むことが。いかに無茶な願いかぐらいは、自分でも判っているのに。
 それでも陽菜なら――。

 そう信じたい気持ちもまた、確かに真央の中にあった。
「真央さんは、ひどい人です……」
「そうだね……」
 陽菜から改めて指摘されると、卑劣な自分に吐き気さえしそうにも思う。
「……これで私に、変なクセでもついたら、責任とってくださいね……」
 陽菜はそう言いながら、真央に微笑んでくれた。
 明らかな作り笑顔。陽菜の躰は今まで以上に、恐怖に震えているのに。
(陽菜は――本当に私なんかを、愛してくれている)
 自惚れなんかでは決してない。陽菜の寄せてくれる想いが、痛いほどに伝わる。
 だから私も――私も陽菜に、精一杯の心で応えないと。


   *


 陽菜から預かった鍵で、真央は三階の第三音楽室準備室の扉を開ける。
 ちょうど校舎の端に位置する音楽室と音楽準備室からは、部屋の先すぐの所に階段がある。階段を真央が下りるとすぐに、陽菜がいる第二図書室の扉が見えてくる。
 見渡す限りに人影はなく、たぶんこの先も見えることはない。元々こちらの校舎には資料室や視聴覚室などの殆ど利用されることがない特別教室が多く、教室に割り当てられた部屋は他の校舎に較べると大分少ないのだ。一階にはまだ部活などで利用される理科室や茶室、それに保健室なんかがあるから残っている人もいるだろうけれど、夕暮れさえ過ぎたこんな遅い時間帯に、この校舎の二・三階に用事がある生徒や教師なんてそうそう居るはずがないのだ。
 それでも、念入りに真央は人影がないかをチェックする。いちどは二階と三階を端から端まで全部の部屋を見渡して、生徒がいないことと残された鞄などの荷物がないことも調べてしまう。これだけの調査をしたのだから、誰かに見られるような心配はまず無いと言っていい。
「――陽菜」
 第二図書室の前まで来てから、中に居る陽菜に向かって声を掛ける。
「大丈夫、誰もいないよ」
 真央がそう言うと、少しだけドアが開いて、陽菜が顔を出して周囲を伺った。
「や、やっぱり怖いですぅ……」
「うん、怖いよね……」
 真央だって、同じことを望まれたなら――きっと、怖くてできない。
 自分ではできないようなことを、陽菜に望んでる。それがどんなに無茶かぐらい、判っている。
「もし先生に見られたら……私、退学になっちゃうのかな……」
 陽菜の畏れは、きっと正しい。
 そんな可能性は殆どゼロだけれど、けれど決してゼロではないということ。
 それを思えば、陽菜に無理強いすることなんて、できない。
 だけど……私は信じている。陽菜が、私なんかのために無理をしてくれることを。
「そうだね――もしもそうなったら、陽菜」

 私も、精一杯の気持ちで陽菜に応えないといけない。
「は、はい」
「私もきっと一緒に退学になる。……そしたらどこかで、二人きりで暮らそう?」
「――!?」
 もしも、どんなことになっても、私は責任を取る。
 陽菜に無理を望んでいるのだから。真央もまた、同じだけの誠意で向き合いたい。
「ま、真央さんに……」
 陽菜が、おそるおそるドアを開いていく。
「真央さんにそこまで言わせて……私に、できないことなんて……」
 図書室のドアが完全に開かれると、そこには一糸纏わない陽菜の姿。
 躰中震えているのが、少し離れた真央からも簡単に見て取れるぐらいで。
 それでも……陽菜は一歩一歩素足のまま、辿々しい足取りで真央の元へと寄ってきてくれる。
「こ、怖いです……」
「ダメだよ、私に隠れちゃ」
 真央の背中に隠れようとした陽菜の手を取って、隣に並んで歩く。
「誰かに見られたら――こんな綺麗な人が私の恋人なんだって、自慢したいぐらい」
「は、はうぅ……」
 気分はまるで、バージンロードを一緒に歩くような心地。
 違うのは手を繋ぐ相手が恋人同士で、片方が全裸。ついでに道程が白い布ではなく、階段だということ。
 未来を譲り渡す相手なんて、この道の先にはないけれど。二人きりの未来なら、幾らでも広がっている。そんな気がするから、不思議。
 ゆっくりとした足取りで、二人で歩く。繋いだ陽菜の手は今でも震えているけれど、途中からは慣れたのか、足取りの辿々しさは無くなっていった。
 三階に上がってもやっぱり人影は無くて。真央たちはそのまま、音楽準備室の中へ歩を進める。
「はあああっ……」
 音楽準備室の中に入って、真央が部屋の中から鍵を掛けるや否や。陽菜は大きなため息と共に、崩れ落ちるようにその場でへたへたと座り込んだ。
「ま、真央さあああぁん……!」
「うん、よく頑張ったね、陽菜」
 抱きついてくる陽菜を、真央は受け止める。
 強く抱きしめ合えば、裸の彼女の体温が少しだけ真央にも伝わる。今は自分が制服を着ていることが、少しだけ煩わしいとも思えた。
「真央さん……私の胸、触ってみて下さい」
「うん?」
 陽菜に言われるまま彼女の左胸に掌をあてがうと、陽菜の心臓がバクバク鳴っている音がそのまま真央にも伝わってくる。今でも震えている陽菜の躰と相まって、どれだけの勇気で無理をしてくれていたのかが真央にも痛いほど判った。
「……こっちにも」
 導かれる、陽菜の秘部。夥しいほどの淫らな蜜で満たされたそこには、少し手を触れあわせるだけで滴るぐらいにねっとりとした液が纏わりついてくる。
「どうしよう……私、立派に変態さんかも……」
「誰かに見られるかもって、興奮した?」
「……うぅ」
 否定しないことは、イコール肯定の意味。
「陽菜は、変態さんだね……」
 真央がそう囁くと、まるで辛い痛みに苛まれるかのように痛々しく顔をしかめる。
「で、でも、真央だって……」
「うん、私も同じ。陽菜にそんなことを強要した、私もおんなじ」
 少しだけ冷静になれた今では、どうしてこんなに危険なことを陽菜に強要したのかが、判らなくなっている真央の心があった。けれど心は同時に、もっと酷いことをいつか陽菜に強要しないではいられないだろう気持ちもまた、どこか真央自身に再確認させてくる。
「……私、きっとこの先、陽菜にもっとずっと酷いことをさせかもしれない」
 だから真央は、その気持ちをそのまま口にする。
「いい、ですよ。もっと……酷いことを、しても」
「本当に? ……鞭でぶったり、縛ったりもするかもしれないんだよ?」
「構いません。真央に、なら……」
 陽菜ならそう言ってくれると、真央ももう信じて疑いさえしていない。
 陽菜は決して――私を、裏切ったりしないのだから。
「……でも、真央にひとつだけ、お願いが」
「うん、なに?」
「あの、せめて……せめて初めてぐらいは普通に、抱いて下さい」
「……わかった」
 思えば愛し合う行為を経たわけでもないのに、いきなりこんな風に陽菜を虐めてしまったことが少しだけ悔やまれる。せめて初めての時を終えるまでの間ぐらいは、普通の恋愛の延長線上に見えるかのような、普通のやり方で愛するべきだったのかも知れないのに。
 ごめんね、という言葉が喉元まで出かかったけれど、真央はその言葉を辛うじて飲み込む。たぶん陽菜は、謝られることなんて望んではいないのだから。いま真央にできることは……せめて陽菜に対して抱く気持ちそのものだけは、僅かな淀みさえない素朴な気持ちであるのだと。そのことを態度や行為で示すぐらいだろうか。
「わわっ」
 準備室のソファーの上に、陽菜の躰を自分の体ごと押し倒す。華奢な陽菜の体はバランスを崩される際に少しだけ反射的に抵抗してきたみたいだったけれど、腕力のない陽菜の抵抗では軽すぎて押し倒す真央の力を少しも押しとどめることができない。
 それなりに強い勢いで、ばふっとソファーの上に二人で倒れ込む。裸の陽菜と、制服姿の真央。異質な格好でもつれあうまま、静かに口吻けを交わし合った。
「……真央さんは脱がないんですか?」
 唇が離れてから、陽菜はそんな風に訊いてくる。
「私も陽菜にして貰いたいけれど……校舎が施錠時間になるまでに、もうあんまりないから」

「ええーっ」

 拗ねた子供のように、唇を尖らせてみせる陽菜。
 朱女の施錠は寮制だからか少し遅いけれど、それでもおよそ夜の八時程度には閉まってしまう。今からでは陽菜ひとりを愛するだけで手一杯しか余裕がなく、お互いに愛し求め合うほどの猶予は残されていない。
「それとも、陽菜は施錠時間を過ぎてから帰りたい?」
 訊かれて陽菜は、あっさりと迷いもなく頷いてみせた。
「……先生に怒られるかもしれませんが、私はそれでも」
「わかった、陽菜はいいんだ? 陽菜がいいなら私ももちろん構わないけれど、もし施錠されたら下の図書室には入れなくなっちゃうよね。ああ、そうだよね……制服なんてそのまま置きっぱなしにして、裸の陽菜を帰り道でみんなに見て貰おっか」
「――!! は、はわわわっ。そ、それはダメです……!!」
 慌てて両腕をぶんぶんと顔の前で交差させて、否定する陽菜がどんなにも可愛かった。
「……はああっ……」
 熱い吐息が狭い世界に充ちる。本当はゆっくり陽菜と愛を確かめ合いたかったけれど、ゆっくりできるだけの時間は本当に無くて。真央はもう、陽菜に気持ちを確かめることなく彼女の肌に掌を這わせ始めた。
 仰向けの陽菜の躰の上で体重を預けながら、そっと陽菜の首筋に唇を這わせて吸い付く。きつく吸い付いて口吻けの証を残す傍らでは、もちろん陽菜を愛撫することも忘れない。ひとつは陽菜の既に期待の蜜に満ちあふれた坩堝に。もう片方の手はソファーとの間に差し入れて、そっと背中から陽菜のことを擽るように愛撫する。
「……せなか、は、だめ、ぇ……」
 切ない声と一緒に、しなやかな陽菜の指先が真央の顎にまで触れてくる。とはいえ陽菜の指先は触れるだけで、それ以上の抗意を真央に対して示すものではない。もぞもぞと背中を擽られる居心地の悪さに対して明らかに身をくねらせながらも、決して陽菜の指先がきちんとした意志で真央を拒みはしない。
「駄目っていうのは、気持ちいいってこと?」
「どう、なんだろ……」
 陽菜自身にも、背中に這わされる指先の感覚が気持ちいいのか、それとも本当に擽ったいだけなのかは判っていないらしい。でも、愛撫なんてそんなものかもしれない。
 背中を擽る指先を緩めて。代わりにくちゅくちゅと、蜜壺を弄る指先の力を少しだけ強めて。
「こっちは?」
 意地悪に真央がそう訊くと。逡巡してから、陽菜は。
「………………気持ちいい、です」
 恥ずかしそうに俯きながら、そう答えてくれた。
 股間を執拗に探る指先に併せて陽菜の躰が大きく揺れ動く。真央ももう何も考えられなくなってただ執拗に執拗に、陽菜の蕾を探り続ける。
「ふぁ、あ……ぁ、ぁぅ……」
 陽菜の嬌声は艶めかしく真央の心を揺さぶる。発される呼吸の吐息は苦しそうなほど荒々しく、大丈夫だろうかと真央が本気で心配に思えるほどだ。華奢で稚い陽菜は決して体力のあるほうではないだろうに、彼女が上げる荒っぽい息遣いは、陽菜が壊れてしまうのでは、という不安を真央に直接抱かせる。
 それでも陽菜はいまさら愛撫の手を緩めたら怒るだろうし、そんなこと望みはしないのだろう。――同時に真央もまたこれだけ昂ぶらされた疚しい感情を、いまさら抑えつけることなど出来ようはずもなかった。
「は、ぁぅ……っ!」
 一際キーの高い陽菜の声が、真央の頭から最後の理性さえ吹き飛ばしてしまう。真央の指先は枷が外れたかのように、好き勝手に陽菜の大事な箇所を貪るように強く求めた。
「ぅ、ううぅ……!!」
 陽菜の嬌声には甘さだけではなく、明らかに苦しみ呻くような苦悶の色も滲み始めてくる。躰の一番大事な箇所――繊細な性器にこれだけ乱暴な愛撫が加えられたなら、無理もないことだろう。気持ちよさもあるだろうけれど、同時にとても陽菜は苦しい想いをしているはずで。……それでも陽菜は抵抗ひとつせずに、真央の愛撫の総てをただ余すところ無く受け入れ続けてくれている。
「……んっ、んんっ……!」
 陽菜の声は甘く蕩けるように霞み、耐えきれない意思表示のようにも、もっとそれ以上を求める淫靡な欲求のようにも聞こえる。真央の指先が陽菜の裡を探り愛撫すると同時に、陽菜が最も感じやすい肉芽をも積極的に愛撫しはじめるようになると、陽菜はもう涙声のままで、ただ嬌声を上げ続けるしかできなくなった。
「ぁ、ぁ、ああぅ……!」
 限界を迎えたことが、すぐに真央にも判った。陽菜とこんなにも密接に繋がっていた真央には、陽菜がいまどういう心地で、どれだけ追い詰められていたかが判っていたから。震わされる躰と、せっぱ詰まっったように掠れ吐き出される声。それは陽菜が、真央の愛を確かな形で感じ受け入れてくれたという、証なのかもしれない。
 体力尽き、弛緩に身を任せて、ソファーに完全に躰を預けている陽菜。

 本当はくたっと倒れている陽菜に対して、さらに責め立てて狂わされる陽菜の姿を見たいという嗜虐的な心も真央の中に沸いてくるのだけれど。さすがにその気持ちは抑えつける。せめて初めては普通に、と求めた陽菜の意志は無下にはしたくなかったから。
「んぅ」
 代わりに真央は、もう一度だけ陽菜の首筋に口吻ける。
 さっきのキスの痕が残るその場所に、もう一度吸い付くように。

 

 


 キスマークは、誰よりも陽菜のことを愛しているという証。
 陽菜が私のものだという、証。

 

 - 夢さえ抱けなかった私は、もういない。
  愛を知らなかった頃の私は、もういない。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

■柚原真央   中等部 1-B / 162cm

 

  五教寮304号室に在寮。同室者は黒江夕で、二人して背が高い。
  身長が高い自分を少しコンプレックスに思っていた節もあったものの、自分と同じぐらいに

  背が高い黒江と同室になってからはあまり気にしなくなった。
  自分の外見のせいか可愛い物に目がなく、同時に可愛い女子も好き。
  そのため寮の隣室の陽菜・瀬奈のことは、二人ともすぐに好きになった。

 

  入学時にはバレー部に入部。運動能力が高く活躍を期待されたが、放課後に陽菜の音楽を楽し

  むという趣味を見つけるや否や速攻で辞めてしまった。真央の快活な性格から、退部の際に

  しこりが残ることは無かったものの、バレー部では今でも真央のことを惜しむ声が多い。

 

  当初、恋愛は「いつか男性とするもの」と漠然と思っていたが、陽菜に告白されたことで

  未解明のまま陽菜に対して抱いていた気持ちに気付き、すぐに恋愛対象として好きになった。
  瀬奈さんのことは今も「可愛い」と思う。でも、「愛しい」と思うのは陽菜だけ。

 

  性愛の最中になると、よく自分を見失う。

  陽菜を大事にしてあげないといけないのに、現実はいつも乱暴ばかりで。

  そうした行為の後にはいつも、寮の自室の隅で自己嫌悪に陥っているらしい。

 

 


■高須賀陽菜  中等部 1-B / 136cm

 

  五教寮303号室に在寮。同室者は大村瀬奈で、二人して背が低い。
  真央とは逆に身長が低いことを少し嫌っていたものの、真央が背が低い自分を「可愛い」と

  言ってくれることで、たちまち好きになれた。

 

  入学時にピアノ部を個人で設立。理由は初等部の頃まで自宅でピアノに慣れ親しんでいた為、

  寮生活になっても弾く環境を持ちたかったから。小学生の頃に賞を取った実績があったことと

  空いている音楽室があることから、個人であるにも関わらず学校側からあっさり認可される。

  ピアノを占有するために、部員は特に募集していない。

  家ではクラッシック以外を弾くと父母が煩かったが、今は誰からも咎められないのが嬉しい。

 

  朱女には初等部から在学していて、中等部へ上がって出会った真央にすぐに恋に落ちる。
  恋の意識さえなかった初等部の頃とは対照的に、真央と出会うことで忽ち恋心を理解した。
  相手が女性であることなんて、始めから問題には思えなかった。しかし真央がそうではなく、

  いつかの未来に男性に対して恋をする、と言っていたことから恋は破れてしまう。
  一度は恋心は諦めて、陽菜はずっと真央の友人でいるのだと決意さえしていた。

 

  真央への気持ちは、愛している気持ちと同じぐらいに憧れや尊敬が混じっているので、

  「真央」と呼び捨てにできるのは二人きりの時だけ。二人きりの時でさえ、気がつけば

  呼び捨てしながらも無意識に敬語混じりで話してしまったりも。
  自分から真央を好きになったことを、とても誇らしく思っている。

  反面、片想いから始まった関係だけに、たまに不安になることも。

 

  口癖は語尾に「……なんて」。本気で焦ると「わわっ」と声に出してしまうのも口癖。

  たまにお調子者を装ったりもするけれど、基本的に根は真面目。
  人にはそうと見せないけれど、頭の回転がよく、やり手で計算高い一面も。
  但し、陽菜から冷静な思考を奪い取ってしまう、真央との恋愛だけはいつでも直情的。

 

 


 

  (※作者注:設定は総て仮のもので、他の話とは一貫しなかったり、変更される可能性が高いです)