■ 08.「素直な言葉(中)」

LastUpdate:2009/01/08 初出:YURI-sis

 早苗の心に合わせようとするのではない。
 伝わってくる早苗の意志、感情。その総てが、そのままさとりの意志とまるで同一だから。

 

「こんなこと、友達同士ではできませんね……」
「……そうだね」

 

 さとりの言葉に、くすりと微笑んで早苗が答えてくれて。彼女の笑顔を見ていると、さとりの表情も自然と綻んでしまう。友達が欲しい――早苗のそうした言葉から始まった私達の関係だけれど、さとりにはもうその言葉を叶えてあげることができない。だって……さとりも、そして早苗も。もう相手のことを「友達」だとは思えなくなってしまっているし、自分のことを相手に「友達」と思われることにも満足できなくなってしまっているのだから。
 どちらから押し倒すわけでもなく、静かに倒れ込むように二人してベッドに体を横たえる。ぎしっと木の軋む音を立てて二人分の体重を受け止めてくれる小さなベッドには、けれど二人の少女を受け止めてまだ余りある広さがあった。
 二人してシーツに顔を埋め合いながら、そのまま些細なキスを交わす。触れては離れ、離れては触れるバードキス。ついばむような唇の触れあいは、ベッド一つ分だけを残して世界を遮断するには十分な幸福感を齎してくれるみたいだった。
 ふとした拍子に交わす、今度は少し長めのキス。唇を触れさせる度にまばたきしていた瞼を、今度は静かに永く閉じ合わせたまま早苗の感触だけを確かめていく。やがて早苗のほうから唇が離れた時には、まるで手品のように――さとりも早苗も、何一つ衣服を身につけてはいなかった。

 

「何もこんなことに、奇跡を使わなくても」

 

 半ば苦笑を抑えきれないままさとりがそう口にすると、つられるように早苗も温かな微笑みを見せてくれる。

 

「あなたの為に奇跡を使わなくて、何に使えと言うのですか」
「……随分と奇跡も安くなったものですね」

 

 軽口を叩いてみるけれど、そんな雰囲気も長くは続けられない。腕や脚が早苗の躰と触れてしまう度に、さとりの脳にはしっとりとした早苗の躰の感触が鋭敏に伝わってきてしまう。一糸纏わないさとりの躰と、同じく一糸纏わない早苗の躰。ベッドの上で無意識に触れあう程、さとりは早苗をより深く意識せずにはいられなくなる。
 伝わってくる感触はどれも、ひとつひとつ艶めかしくて、そしていやらしい。駆り立てられる淫靡な雰囲気に呑まれるように、今にも襲いかかりたくなる自分の心を抑えるのにさとりは必死だった。

 

「我慢なんてしないで、好きにしていいんですよ?」
「――!!」

 

 早苗の言葉に、一瞬さとりはどきりとする。
 私が早苗の心を伺い知る術を持っているように、早苗もまた――私の心の有り様を、本当は見透かしているのではないだろうか、と。
 そんなことを思ってしまうさとりに、早苗は小さくくすくすと笑ってみせる。

 

「もちろんさとりの考えている事ぐらい、わかりますよ?」
「……そうなの?」

 

 こんな力を持っているのは私だけだと思っていたけれど――。
 なおもさとりが彼女の真意を知ろうと見つめると、早苗は優しい笑顔の儘で頷いてくれて。

 

「だって――好きな人のこと、ですから」

 

 何の衒いもなく、まるで当たり前のことを口にするかのように。
 さとりの瞳を真っ直ぐに見つめながら、そんな風に言ってみせるのだ。