■ 9.「素直な言葉(後)」

LastUpdate:2009/01/09 初出:YURI-sis

 狭い狭い、二人だけの世界がどんなにも熱くて、冬だというのに肌は汗ばんできてしまう。それと共に感じられるのは、微かな相手の汗の臭い。頭がくらくらするほど官能的な世界に誘われる儘に、早苗の肌に自分の舌を這わせたいという欲求をさとりは抑えきれなくなる。
 早苗の手を取って、その人差し指を咥えるように頬張ってみる。薄く塩はゆい指先の味わいが、より深い酩酊の中へとさとりの思惟を陥らせていく。
 一方で早苗もまた、倣うように同じようにさとりの指先を咥えてみせる。さとりの人差し指、それに中指を加えた二本の指先が早苗の口内に囚われると、彼女の口腔の酷く熱い熱気の中でもとりわけ赤熱のように熱い舌が執拗に舐っては高温の唾液と共に包み込んでくる。
 さとりもまた倣い返すかのように、もう一本の人差し指を自分の口内へと咥え込む。早苗の指先はとても細くて小さいけれど、それでも二本も口腔に押し入れてしまうと少しだけきつくて――だけど、自分の意志で口内に捩じ込んだ指先の圧迫感が、却って心地良くもあった。
 口内って、本当はとても無防備な場所なのだと思えた。そのさとりの無防備な場所を、早苗の二本の指先が埋め尽くしていて、自分の意志で咥えた筈だというのに――あたかも早苗に支払いされ、そして犯されているかのような心地良い苦しさが頭の中を埋め尽くしている。ただでさえ口内に頬張った指先のせいで酷く息苦しくて、さらには僅かにでもさとりの喉へと早苗の指先が触れるだけでも噎せ返るように苦しい。だというのに――馬鹿みたいに、そんなことさえも嬉しいのが不思議でならない。
 きっと早苗も同じ感覚、同じ気持ちを共有してくれているのだと思えた。時々噎せるように漏れ出る詰まったような早苗の声が聞こえてしまうのに、それでも早苗はさとりの指先を決して吐き出しはしなかった。

 

「……どうにか、なってしまいそう」

 

 ようやく互いに指先が相手の口元から離れると、ぜえぜえと呼吸が酷く乱れてしまっていて。二人してぐったりとしながら、早苗がそんなことを口にしてみせる。
 さとりもまた早苗の言葉に、ただ頷いて答えた。これからどうなってしまうのだろう――僅かな畏怖の気持ちと、恐ろしいほどに膨らんだ期待の感情。どうにかなってしまいそうで怖いのに……もうさとりの心は、早苗によってどうにかしてもらうことでしか解消できないほどに圧迫されてしまっている。

 

「あ、あ、あ……」

 

 さとりの乳房とお腹、そして下腹部。他でもないさとり自身の唾液を纏わせた早苗の指先が、つつっとぬめった感触を残しながらさとりの躰を触れ降りていくたびに、抗えきれない感覚と期待の儘の声が喉から漏れ出てしまう。
 やがてさとりの躰で最も脆い筈の場所にまで早苗の指先が辿り着いてしまうと、僅かに触れられるその感触だけでも、今にも正気を失ってしまいそうだった。心はそれほど期待に満ち、躰は震えるほど刺激に飢えている。酷く切ないさとりの心には僅かに触れるだけの早苗の指先の摩擦でさえも苦しくて、渇ききった喉へと一滴の清水を滴らせるのと同じぐらいの悲痛さで、呼び水となって欲望と渇望とをさとりの中へ溢れかえらせてしまう。

 

「も、もう我慢できません……っ! は、はや、く……」
「……うん、私も我慢できないから……さとりも、お願いね?」
「は、はいっ……!」

 

 互いの指先が、互いの躰で最も敏感な部位に触れる。

 

「ふああああっ……!!」
「ああっ、あうううっ……!!」

 

 殆ど悲鳴にも似た潰れるような声で、たちまち互いの喉から嬌声が零れ出てきてしまう。
 あまりの倖せに胸が詰まる思いがした。早苗がさとりの秘所を責めてくる指先には容赦が無くて、彼女の意のままにされているのだ――という意識が、余計にさとりの中での幸福感ばかりを膨らませていくみたいだった。
 同時にさとりも容赦することなく早苗の秘所を苛むほど、彼女もまた振り乱すように声を上げてくれて。心を読まなくても否応なしに伝わってくる彼女が自分を受け入れてくれているという想いがあり、自分の指先に幸せを感じてくれているという事実があった。

 

「ふぁ、ぁ、ぅ……! さな、えぇっ……!!」
「さ、さとり、ぃっ……! は、ああああんっ……!!」

 

 愛し合ってから互いの躰が強く震えるまでに、さして時間は掛からなかった。二人して破裂せんばかりに膨らんでいた心と躰だから、導かれるだけの準備は既にできていたし、そのことが解っていればこそ相手の躰にも分別を忘れた指先の苛みを課すことができたからだ。
 疲れの儘に弛緩しようとする躰、けれど愛欲はまだ満たされていなくて、休む間もなく私達は互いの躰を求める指先の苛みを課していく。素直な儘に幸せを求める方法を誰よりも知っている私達だから、ようやく手にすることができた倖せに対して今さら躊躇う気持ちを抱こうとさえ思わなかった。