■ 101.「緋色の心」

LastUpdate:2009/04/11 初出:YURI-sis

「もしも私がすることが、天子が望むものと違った場合には、すぐに教えてね?」
「は、はい」
「それじゃ、天子――いまからあなたの両手を縛るわ」

 

 促されるまま、おずおずと天子が両手をアリスさんのほうに差し出すと。けれどアリスさんは、ふるふると首を左右に振って天子の行為を否定してみせた。

 

「ごめんなさい、本当に縛るわけじゃないの。あなたの両手を、こっちに……」

 

 そう言いながらアリスさんは天子の両手を、ちょうど天子の頭が載せられている枕のほうへと導いていく。
 そこまでされて、ようやくアリスさんの意図が天子にも判ったから。それ以上はアリスさんの手を煩わせることなく、自分から進んで両手を枕の下に差し込んだ。

 

「……私の両手は、縛られちゃったんですね?」
「ええ、そう思ってちょうだい」
「はい……」

 

 頷いて答えながら、枕の下で天子は両手を組み合わせる。
 例え実際に縄か何かで両手を縛られているわけではないのだとしても。アリスさんが拘束を望まれるのであれば、天子の両手は確かに『縛られた』のだ。枕に掛かる天子自身の頭の重みの下で、私の両手はアリスさんの望みによって確かに『縛られて』いる。だから……例えこれからアリスさんにどのように愛されるのだとしても、天子はその行為に抵抗することができないのだ。

 

「胸が、どきどきしています……」
「……私もよ」
「そう、なんですか?」

 

 アリスさんの言葉は少しだけ意外で、天子はそう問い返してしまう。
 苛めて頂けるのは、あくまでも天子がそれを望んだからであって。アリスさんは、その望みに応える為に付き合って下さるだけなのだと思っていたから。だから、苛めるという行為に……アリスさんのほうも緊張して下さるということが、意外に思えてしまったのだ。
 問い返した天子の言葉に。アリスさんは少しだけ困り顔のように眉を下げながら、躊躇いがちに頷く。

 

「……もしかしたら、私もあなたを苛めることが好きなのかもしれない」
「そうなんですか……?」

 

 さっきと同じ言葉で、再度天子は問い返してしまう。
 天子の問いに、やっぱり少しだけ困ったような顔で、アリスさんは頷いてみせるのだった。