■ 11.「素敵な生活」
天子の躰を包む最後の一枚。それに手を掛けると、さすがに彼女の表情にも怯えるような色が見えてしまう。
それでもアリスはもう、脱がしてもいいかを天子に訊ねるようなことはしなかった。さっきシャツを脱がす時に彼女の意志は十二分に確認できたつもりだし、何度も訊ねてしまうことによって却って彼女の不安や緊張を煽るようなことはしたくなかったからだ。
熱病に冒されたかのように熱く火照り、紅がかった彼女の素肌。彼女のお腹や太股にまで染まる薄紅に似た色のショーツを、意を決してアリスは脱がしてしまう。
「ああぁ……」
幾重かの糸を引いて最後の布地が脱ぎ下ろされてしまうと、むわっとするほどの熱い天子の熱と匂いとを、すぐ傍にまで顔を近づけていたアリスは鋭敏に感じ取る。脱がされる端で不安げに天子が漏らす切なげな声。その声さえ、堪らなく愛おしかった。
「……綺麗ね」
「へ、変なこと言わないでください……」
天子に窘められてしまうけれど、無意識に出てしまった言葉なのだからどうしようもない。
服の内に隠されていた、彼女の透き通るような躰。目映い薄紅と肌色の中に――まるで、無数の色彩を見るかのような想いがした。暖色ばかりに満ちている筈の天子の躰は、けれど彩りに溢れた彼女らしい服装を身に纏っている時よりも、余程鮮やかな輝きに富んでいるようにも感じられるから不思議で。
どこに触れても、そこにあるのは布地一つも介さない彼女の素肌。熱気と汗のせいか仄かに湿った心地がするのに、けれどそれ以上にさらさらとしたきめ細やかな感触があった。
自分の心で狂おしく猛る感情を、アリスは必死に振り払う。抑えていないと、すぐにでも組み敷いて昂ぶる欲望の儘に天子の躰を求めて、壊してしまいそうだった。一瞬でも早く彼女を自分のものにしてしまいたい――今まで一度として感じたことがない情欲が心には渦巻いていて、脳が今にも痺れてしまいそうな怖い程の支配欲を、なんとか制止ながら少しずつ彼女の繊細な肌へと指先を這わせていく。
「……はぅ……」
次第にアリスの指先が彼女の敏感な部位にまで近づいてくると、天子は密やかに息を詰めた。