■ 112.「端書31」

LastUpdate:2009/04/22 初出:YURI-sis

 最近、空を見ることが多くなったな、と。早苗は我ながらに思う。
 それは即ち、霊夢さんのことを考えている時間が、いつの間にか多くなってしまっているということ。

 

 一番多いのは、やっぱり境内の掃き掃除をしているときだろうか。木々の葉が秋らしく色づき始めた今日この頃には、日々の落ち葉も随分と増えてきて。掃き掃除にも遣り甲斐のようなものさえ感じられてくるようになると、早苗と同じように――霊夢さんも、きっとあちらで同じようなことを感じておられるのだろうか、と思う。あるいは料理を作るときや、お風呂に入るときにも霊夢さんはいまどうしているのだろうと自然に想いを馳せるようになっていたし、縁側から雨空を見上げているとき、それに眠りにつく間際にさえ、いつしか霊夢さんのことを考えるのが日課のようにさえなっていた。
 二十四時間いつでも、ふとした拍子には霊夢さんのことを考えてしまう。馳せる対象が必ずといっていいほど霊夢さんのことばかりで、例えばいつ行っても博麗神社に集まっている魔理沙さんや萃香さんのことを考えることが全くといっていいほど無いことが、早苗には少し不思議だった。
 どうしていつも、霊夢さんのことばかり考えてしまうのだろう。そうした疑念が顔に出ていたのか、神奈子さまや諏訪子さまから「何か悩み事があるの?」と訊かれてしまうことが多くなった。……なんとなく、この気持ちを口に出して打ち明けるのは凄く恥ずかしいことのような気がして。お二人から訊ねられても、早苗はいつもはぐらかしてしまっていたのだけれど。これ以上、お二人を心配させるような隠し事を続けるのは申し訳ないような気がして……とうとう今日になって、夕食の席でお二人に相談してみた。

 

「それは恋だよ、早苗」

 

 早苗が一通りのことを伝え終わったあと。お二人がお二人とも、声を揃えながらそんな風に言ってみせるものだから。
(……これが、恋なんだ)
 早苗もようやく、この感情の答えを知ることができたのだった。

 

 

 

 

 

「どうしたの、早苗」
「……う、気付いておられたのですか」
「そりゃ気付くわよ。これでも私は、結界が得意なのよ?」

 

 夕食のあと、急に霊夢さんに会いたくなって。もう夜もそれなりに深まり始めているというのに、気付けば博麗神社まで早苗は飛んできてしまっていた。来たはいいけれど……時間が時間だし、お家の方をお尋ねしていいものか迷って境内でぐずぐずしていると、あっさり霊夢さんに見つかってそう話しかけられてしまった。

 

「夜分遅くにすみません……」
「ああ、そのことを気にしていたのね。もっと遅くに押しかけてくる奴も少なくないから、気にしないで構わないのに」
「そ、そう、でしたか」
「ええ。……まだ秋の始めといっても、夜は寒いわ。どうぞ上がっていって」
「……あ、はい」

 

 促されて、一度は霊夢さんの後ろについていくけれど。
 疚しい気持ちを抱えた私が、このまま霊夢さんのお家にお邪魔してしまうのは。許されないことのような気がして、早苗は不意に立ち止まる。

 

「どうしたの?」
「あ、あの、ですね。私……言わなければならないことが」
「……? 話なら、中で聞くわよ……?」
「い、いえ。それではまずいといいますか、差し支えなければここで聞いて頂きたいのですが」

 

 こほん、と早苗は小さくわざとらしい咳払いをする。

 早苗の言葉に、霊夢さんは首を傾げながら訝しげにこちらを見つめ返してくる。
 自分でも変なことを言ってしまっているなあ、と。早苗自身でさえ思う。

 

 一筋、もう冬かと思わせるほど冷たい風が早苗の頬に触れた。
 早苗が次の言葉を紡ぐ為の勇気なんて、その程度のきっかけがあれば十分だった。