■ 117.「善意の嘘」

LastUpdate:2009/04/27 初出:YURI-sis

「だ、だめだよ、はやて……勉強会なんだから、勉強しないと」
「……一応、本当に勉強会の予定やったんやけどねえ」

 

 フェイトの言葉に、はやては軽く引きつった苦笑いをしてみせる。……一応、当初の予定では本当に「勉強会」の筈だったのだから。こうなってしまったのは、はやてにとっても予想していなかったことなのだろう。
 いつも試験前には、みんなで集まって勉強会を開いたりするのが定例のようになっていたから。だから、初めにアリサが『今週末に勉強会をしよう』と言い出してきたときに、フェイトもはやてもそれに特別驚きはしなかった。ただ、今回に限っては試験前でもない筈なのに、どうしてだろう……って、思わなかったわけではないのだけれど。それでも、断る理由なんてありはしないから。フェイトもはやても、アリサの提案に素直に頷いて承諾したのだけれど。

 

「……まさか、誰も来ないだなんて思わなかったよ」
「私達二人とも、初めからアリサちゃんの手の上で踊らされてたわけやねえ……」

 

 いつも通り約束の時間の三十分前には、集合場所のはやての家に着いていたフェイトだけれど。フェイトが到着するや否や、不思議なほどみんな声を揃えて約束をキャンセルしてきたのだった。キャンセルの電話ははやてが受けたから詳しい事情は知らないけれど、はやてが言うには最初はなのはから『翠屋の手伝いで行けなくなった』と言う旨の連絡があって。続けざまにすずか、アリサの順番に『家の用事で来れない』といった連絡があったらしい。
 その上、はやての家に他に住まう四人まで、まるで打ち合わせたみたいに外出していていないのだという。さすがにこれだけ条件が揃うとなると……これが作為的でないと考えるほうが、おかしいというものだ。

 

「ね、ねえ。はやても……今日、こんな風になってるって、知らなかったんだよね?」
「うん、知らんかったよ?」
「じゃ、じゃあ、どうしてはやてはそんなに乗り気なの……?」

 

 私達は、どちらも等しく『騙された』側の立場である筈なのに。はやてはまるで、フェイトとは違ってそれを仕掛けた側であるかのように、その状況に気づいたとき躊躇無くフェイトを押し倒してきたのだ。まだ、服を脱がされてはいないけれど……はやてが押し倒してくる意味が、判らないほどフェイトだって鈍感ではないのだから。そうしたはやての積極的過ぎる行動に、少しびっくりさせられてしまう。

 

「騙されたってゆうても、私達の為にしてくれたことぐらい、判るやない?」
「それは、そうだけど……」
「やったら、せっかくみんな協力してくれたんやし、甘えないと損してしまうよ」

 

 騙されたとは言っても、そこに僅かにさえ悪意が無いことぐらいは判ってる。なのはもすずかも、アリサやはやての家族のみんなだって、誰一人私達の関係に気づいていない人なんていないのだから。みんなが口裏を合わせて騙してきたのだって、悪意からではなく善意からのものだって……フェイトにだって判るのだ。
 もちろん悪戯好きなアリサやヴィータ、シャマルなんかは今ごろどこかで仕掛けの大成功にくすくすと微笑んでいたりするのかもしれないけれど。それでさえ、彼女達なりの善意からやってくれたことだって、ちゃんとフェイトにも判っている。
 だけど……いざ作為的に二人きりの時間を作られたからといって、フェイトには素直にはやてに甘えることなんてできないのだ。もちろん、いつだってはやてに甘えたいとは思っている。二人きりの時間を過ごせたらいいな、なんて毎日のように思っている。だけど、こんな風にみんなに協力されてしまうのには、どうしても慣れないのだ……。

 

「だ、だめだよ、はやて。私……やっぱり、その気になれないよ……」
「じゃあ……私がその気にさせたる」

 

 柔らかなはやての唇が、不意打ちのようにフェイトのそれに重ねられてくる。
 フェイトが慣れなさから駄々を捏ねていられるのも、その瞬間までだった。