■ 14.「従主の密約」

LastUpdate:2009/01/14 初出:YURI-sis

 つい先ほどまでは薄明かり程度の灯りしかなく、殆ど闇で埋め尽くされていた筈のレミリアの私室には、今はこれでもかという程のランプが灯され、元々闇夜でも目が利く吸血鬼のレミリアにとっては眩しすぎるぐらいだった。
 もちろんこれだけの灯りが焚かれれば、夜目に不自由な人間の咲夜にとっても何一つ不自由なく部屋の中を見渡すことができるのだろう。……これから咲夜にされることを思えば、この十分すぎる灯りの中では咲夜に対して何一つ隠し立てできないであろうこと、それがレミリアにとって恥ずかしくない訳がなかった。
「ではお嬢様、そろそろ」
 椅子に腰掛けた咲夜が、促すようにそう口にしてきて。
「……わかったわ」
 咲夜が何を命じたわけでなくても、促されればその意図することぐらいは判る。
 座っている昨夜の前にひとり立ちながら、レミリアはゆっくりと身に着けている洋服に指を掛けていく。胸元のボタンをひとつひとつ慣れない手つきで外してしまうと、スカートとひと繋ぎになっているワンピースを全身を使って脱いでいく。
 普段は着替えも咲夜に頼り切っているせいか、服を脱ぐことはひとりではなかなか簡単にはいかなくて。何とか時間を掛けてワンピースを脱ぎきってしまうと、それだけで急に許ない不安な気持ちにもなってきてしまう。
 当たり前だけれどワンピースの内には薄い下着の他に身につけているものなんてなくて。そこにまるで品定めするかのような咲夜の鋭い視線が突き刺さってきてしまうものだから、それだけで酷い不安と恥ずかしさが心に沢山溢れかえってきて。それでも床にお尻をつけてソックスを脱ぐまではまだよかったのだけれど、シャツとドロワーズ以外に身に付けているものが無くなってしまうと、途端に指先は自分の意志に反して動かなくなってしまう。
「……お嬢様」
「わ、判ってる」
 何度も咲夜には裸を余すところなく見られたことがあるというのに、下着を身につけている今の格好でさえ見られるのは酷く恥ずかしい。湯浴みの手伝いで咲夜の前で脱ぐ時には殆ど気にもならないのに、これから『咲夜に見られる為に脱ぐ』のだと意識するだけで、恥ずかしさで頭がかぁーっと熱くなってしまう。もしかしたら、これこそが従者として咲夜を意識するのではなく、愛する人として……恋人として意識するということなのかもしれなかった。
 辿々しい指先の動きながらも、少しずつシャツを捲り上げて脱いでいく。あまりの震えに儘ならない指先の感覚は、紅茶と一緒に服用した薬のせいもあるのかもしれない。
 興奮のせいか既に敏感さを普段よりも増していた乳房には、擦れる布地の感触さえどこか痺れるような甘さを残していく。裏返ったシャツを脱ぎ捨てるように躰から離すと、ごく僅かな乳房の膨らみが露わになる。
「後ろを向かないで下さい。……隠すのも、ダメです」
 恥ずかしさから乳房を両手で覆い隠し、上体を背けたレミリアの行動を見て、すぐに咲夜から咎めるような指示が入る。咲夜の命令には絶対服従すると誓った約束があるから、レミリアはその言葉に抗うことができない。
「もう一歩、こちらに近寄って下さい」
 元々殆ど離れていない距離を、命令されるままさらに一歩近づく。レミリアの躰のすぐ直前に、椅子に腰掛ける咲夜の姿があって。それはもちろん隠すことを禁じられたありのままの恥部を、ごく近い距離で咲夜からの視線を浴びるという意味でもあった。
 見られる恥ずかしさに躰が震えて、同時に少しずつ火照りを覚えてくる。恥ずかしすぎて頭がおかしくなりそうなのに、それでも「続きを」とだけ咲夜の指示が聞こえてきたなら、最後に残されたドロワーズにも指先を掛けないわけにはいかない。
 少しずつドロワーズをずり下げていく。露わになっていきお腹と下腹部とに徐々に空気が触れてきて、その冷たさに躰が少しだけ怯んだりもするけれど、それでも刷り下ろす指先を止めるわけにはいかなかった。
 膝下にまで下がったドロワーズを片足ずつ抜いていって、とうとうレミリアが身に付けていられるものは何も無くなってしまう。隠すことが許されない以上、下着を失って涼しすぎる下腹部を隠すこともできない。レミリアの身体の中で最も弱い場所であるそこを、目と鼻の先程度の距離から咲夜の視線が突き刺してくる。
「ぁ、ぅ……」
 未だ何もされていないのに、自然に声が漏れ出てきてしまう。
「ふぁ……!!」
 咲夜の指先が伸ばされてきて、レミリアの弱点に触れてくると、漏れ出てしまう声はより鮮明なものになる。
「もう濡らしていらっしゃるのですか、お嬢様?」
「そ、んな……」
「よっぽど苛めて欲しかったんですね? ……恥ずかしい」
「うぅ……」
 蔑むような咲夜の言葉にも、レミリアは抗うことができない。
 事実、レミリアの躰は随分と前からその火照りを自分の裡で消化できずにいた。恥部が既に濡れてしまっていることも服を脱ぐよりも前からわかっていたことだし、だからといってどうすることもできなかった。
 ――この身体の疼きを鎮める方法なんて、結局ひとつしかないから。
「さ、さくや、ぁ……」
 哀願するようにレミリアがそう口にすると、咲夜は冷たく一瞥してから。
「疼くのでしたら、ご自分で処理をどうぞ?」
「……!!」
 あまりにも冷たい口調で、そうとだけ言い捨ててしまうのだった。