■ 15.「従主の密約」

LastUpdate:2009/01/15 初出:YURI-sis

 レミリアの躰はもう、咲夜からの苛みの指先を求めて止まないというのに。それでも咲夜がそんな風に冷たく言う以上は、まだ咲夜は愛撫の手を伸ばしてきてはくれないのだろう。
 だとすると、それが余りにも淋しい行為だと十分理解しているにも関わらず……結局この身体の疼きがどうにもならない以上、咲夜の言う通り自分の手でなんとかするしかないのだった。
 咲夜の目の前で、床にお尻を付いて。そっと指先を自分の下腹部へと伸ばす。
「んぁ、ぁ……!!」
 手を伸ばせば触れられるほどの距離に愛する人がいる。愛する人が手を伸ばしてくれたなら、触れられるほどの距離に無防備な私が居るのに。それでも自分の指先で自身の疼きを宥めなければならないだなんて、こんなに淋しいことがあるだろうか。
「脚はもっと開いて下さいね」
 命令されるまま、咲夜の椅子の目の前でレミリアは大きく脚を開く。どんなにも淋しくて悲しいと思うのに……それでも指先を自分の恥部にそっと這わせれば、どうしようもなく導かれる快楽があるだけに、その惨めさは深く心を侵してくる。
「ふぁ、ぁ……ぁ、っ……ん、くっ……」
 指先を陰唇の襞に這わていけばその分だけ、静かにゆっくりと、けれど確実に己の劣情が快楽として積み上げられていく。
 咲夜はレミリアが求める直接の慰みを何一つ与えてはくれないけれど……それでも、咲夜は確かにレミリアのことを見つめ続けていてくれる。躰の疼きを慰める指先はレミリア自身のものに他ならないのだけれど、咲夜のすぐ傍で、彼女の視線を浴びながら這わせる自身の指先は不思議と、まるで自分のものではないかのような感覚で無慈悲に自分を苛み始めていた。
「ぁ、ぅ……! ん、くっ!」
 指先を陰唇よりも上、陰核のほうにまで伸ばすと、包皮の上から触っただけでも震えるほどの快楽が躰の中に流れてきて、思わず喉が詰まるように鳴る。ふと、椅子に腰掛ける咲夜のほうを見上げると、咲夜もまた違いなく視線を重ねてレミリアのことを見つめ返してきてくれた。
 指先の苛みは殆ど無意識に加速していく。加速に伴い、いつも以上の速度で躰の中に溢れてくる何かが追い詰められていく。
「ふぁあ、っ……!! ぁ、ぅ、ぁああ……!!」
 背筋を駆け抜けていく感覚がある。甘い痺れが全身を満たそうと伸び始めて、この痺れのままに満たされ、心ごと躰も痙攣する瞬間をレミリアは待ち侘びる。
 レミリアの恥部は熱病のように濡れそぼり、伴うかのように脳までもが熱く滾る。熱に浮かされるかのように儘ならない思考のまま左手の指先で膣口をなぞり、右手の指先で陰核を摘み擦る。
「――ストップ!」
「ふぁ!?」
 言葉の持つ静止の意味よりも、咲夜が急に上げた声に驚いて、びくっと躰が震えてしまう。
「くぅ……ぅん、っ……!」
 驚きの余り一瞬力が入りすぎてしまった右手の指先に、ぎゅっと強く挟み苛まれた陰核が、強い痺れと痛みを訴えてくる。じんじんと痺れる性感と痛みとが、急停止した苛みに戸惑うかのように鈍く震える。
 開きっぱなしのレミリアの口の先、唇から唾液が一糸を引いて零れていく。静止の声などなく、このまま指先を動かし続けられたならきっと、ものの数秒で絶頂を迎える事が出来た筈なのに――。
「さ、さく、ゃ……?」
「まだ駄目です」
 疑問の声を上げても、にべもない返事だけが返される。
 絶頂直前にまで高められた躰が、その瞬間を迎えることなく急速に弛緩させられていく。最大限高められつつあった気持ちよさは簡単に喪失されていき、迸るほどの熱に浮かされていた躰も急速に冷たくなっていく。
 気付けばレミリアの両の眼には、薄らと涙が滲んでしまっていた。達することなく熱が引いていく感覚の後には、やり場のない淫らな心の行き先と、悲しすぎるほどの惨めさばかりが残されるみたいだった。
「ど、どうして……?」
 理由を訊ねても、咲夜は何一つ答えてはくれない。
 すっかり冷たくなってしまったレミリアの躰の中で、弄り苛んでいた性器だけがぴくぴくと細かく震えては、再度の苛みを求めるかのように訴えてくる。なのに――咲夜に制止されたままの現状では、そこに触れることさえできはしない。レミリアにできることといったら、せいぜい脚をもぞもぞを動かしては、なんとなく欲求をごまかす程度のことだった。
「……ああ、もう結構ですよ」
「え?」
「自慰、したいのでしょう? どうぞお好きに」
 冷たすぎる咲夜の物言いに、悲しさはより強固なものとなって心に降り積む。
 そう、とても悲しいのに。それなのに……咲夜から許可を貰うや否や、すぐにでも自慰の指先を再開せずにはいられない自分の姿が。どうしようもない程の惨めな悲しさを、ひしひしとレミリアに痛感させた。
「ん、ふぅ……」
 悲しさの中に、心はどんなにも冷たく沈んでいくのに。苛みを待ち侘びていた性器に指先を這わせれたなら、躰は冷めた熱を少しずつ取り戻していく。
 見下す冷たい咲夜の視線と、見上げるレミリアの視線とが交錯する。決して賭け事の代償として、遊びで虐げるのではない。咲夜の凍てつくような視線の中に、これが僅かに一晩の間だけしか続けられない関係なのだとしても、レミリアのことを本気で好きに扱おうとしてくれる咲夜の心が籠められているような気がして。
 だからレミリア自身もまた、咲夜の思う儘に翻弄されたいと心から願って。そして何より一晩だけの契りだとしても、心底咲夜の思う儘に扱われるような存在になりたいと願いながら、自身の弱所へと鋭い苛みを課していくのだった。