■ 25.「端書02」
――珍しく二人きりでお酒を飲みたいなんて言うから、
初めから、変だなあ、とは思っていたのだ。
(それでも騙されてるのだから世話ないわね……)
霊夢は内心で溜息をついてみるけれど、もちろんそんなことで状況が何も変わる筈がない。傷つけない配慮からか、手首に感じられるのはどこか柔らかな感触。けれどそれも、ぎちっと硬く戒められているせいで後ろ手に回された霊夢の両腕は殆ど自由に動かすことができなかった。
隙を見せるほど、呑むつもりなんてなかったのに。無意識のうちにお酒が進んでしまっていたのは、妙な高揚感めいたものが心の裡にあったからなのかもしれなかった。大勢集まっての宴会、あるいは少人数で集まっての飲み会という形でしか、咲夜と一緒にお酒を飲むことなんて今まで無かったから。二人きりで差し呑んでみて……初めて知ることになる彼女の魅力に、酔わされてしまっていたのかもしれなかった。
酒は多くのまやかしを見せるけれど、その一方では普段はなかなか気づくことのできない真実を映し出すこともある。一緒にお酒を飲んでみた時に霊夢が感じた魅力というのは、まさにそれによって魅せられたものだった。普段はレミリア・スカーレットというカリスマの光に隠れていて、誰もがなかなか気付くことができないでいる彼女の魅力を――お酒の導く微酔の魔力が、改めて霊夢の前へ知らしめて来たのだ。
――綺麗な人だ、と思った。
同じ人間であるはずなのに、彼女の魅力には人間くささをまるで感じない、何かを隔てた別種の魅力のようなものを霊夢は感じずにはいられなかった。吸血鬼の生活に総てを合わせているせいか、陽に焼けることを知らない病的に白い肌。けれど華奢というよりは健康的で、無駄のない肢体。
羨望と憧憬とが霊夢の心には自然と溢れる。同時に――それ以上に深い彩りに満ちた、別種の想いも抱かずにはいられないのだけれど。
「あなたにこんな趣味があるだなんて、知らなかったわ」
憎まれ口を叩くかのような口調で霊夢がそう口にすると、咲夜はくすりと微笑みで応えてくれる。
そんな微笑みさえ、とても魅力的に見えてしまうのだから。なんだか、色々狡い。
「……実際、嫌いではないのかもね。今のあなたの格好を見て、興奮しないと言ったら嘘になるし」
咲夜が口にした、今の格好、という言葉に霊夢の頬には僅かに紅が差してしまう。
できるだけ意識しないようにしていたのに……それでも咲夜の口から指摘されてしまうと、もう否応無しに意識されてしまって、霊夢は自分の心を落ち着けることができなくなってしまう。
二人で一緒にお酒を飲んでいて。飲み過ぎたかな、と霊夢が一瞬だけ思った直後には――霊夢が身に付けていた衣服は、下着も含めて全部脱がされてしまっていた。そのことに気付いて霊夢が慌てた一瞬あとには――もう霊夢の両腕は背中で縛られてしまっていたのだ。
裸にされた挙句、後ろ手に縛られてしまっている格好。止め処なく意識してしまえばそれだけ、霊夢は顔や心がかぁーっと熱くなっていくのを抑えることができなくなってしまう。
「大丈夫よ……天井の染みを数えている間に終わるわ」
なんだか可笑しそうに頬を緩ませながら、そんな古典的なことを口にしてみせる咲夜。
けれど霊夢の視線は彼女に釘付けにされていて、とてもじゃないけれど天井を見つめる余裕なんてなかった。
「ふぁ、ぁ……」
霊夢の乳房の上を、つつっと咲夜の指先が撫ぜる。
こんな戒めを受けて、屈辱極まりない格好で、一方的に犯されてしまうなんて絶対に堪えきれないこと。
そう、思うのに。
(……咲夜になら、いいかなあ)
霊夢にさえ、そんな風に思わせてしまう彼女は。
やっぱり狡い人だなあ――そう、思わずにはいられなかった。