■ 45.「端書10」

LastUpdate:2009/02/14 初出:YURI-sis

 包装を解いて。その中に、チョコレートが見えた瞬間には。
 ここが幻想郷であることを、一瞬だけ忘れそうにもなってしまった。

 

「どうして?」

 

 思わずそう訊いてしまった早苗の問い掛けに、けれど映姫は答えてくれない。
 いかにも急ごしらえの包装は、お店の人に無理を言ってしてもらったものだろうか。洋菓子には似合わない和装な包みだけれど、それが何だか却って心に留まるようにも思えてしまうから不思議だった。

 

「……知らなかった、のです」
「何を?」
「ですから、その。今日が……チョコレートを贈る日、ということを、です」

 

 そっぽを向く映姫の顔に、僅かな紅が差しているのが見えて。
 早苗は、思わず嬉しくなってしまう。
 さっき映姫と一緒に里に遊びに行っている最中、ちょうど出会った阿求からチョコレートを貰ってしまった早苗だけれど。その光景を横で見ていた映姫が、慌ててこれを準備してくれたのだとしたら。
 そんなの――妬いてる、って言っているようなものだ。
 色々と映姫に、阿求が後で吹き込んでいたのを見たから。バレンタインデーの風習について阿求から教えられて、それで慌てて里を駆け回って準備してくれたのだろう。

 

「映姫。チョコレートには二種類があるんです」
「二種類、ですか?」
「はい。ひとつは普段付き合いのある友達なんかに、その義理に対して感謝の気持ちとして贈るものです」

 

 そう告げながら、早苗はさっき阿求から貰ったチョコレートを映姫に見せる。
 早苗と阿求との間には、もちろん友人としての関係を踏み越えたものなんて何一つない。だからこれは、あくまで義理のチョコレートに違いないのだ。

 

「もうひとつは、愛している相手に贈るチョコレートです」
「愛している相手に……」
「はい。相手にチョコレートと贈ると同時に、愛の告白をするんです。ですからチョコレートは、あくまで告白の添え物のようなものですね」
「そ、そうだったのですか」

 

 映姫は、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「阿求からはただチョコレートを頂いただけですから、もちろんこちらは義理のチョコレートです。――それでですね、映姫?」
「は、はい?」
「私はちょうど今しがた、映姫からチョコレートを頂いてしまいました。映姫が何も言って下さらないのでしたら、もちろんこれは義理のチョコレートとして私は受け取らなければいけませんが。……どうしましょう?」

 

 殆ど挑発のように早苗がそう告げると。
 映姫は顔を真っ赤にして、また俯いてしまう。
 それでも映姫が自分に対して特別な想いを抱いていることをちゃんと知っているから、ただ静かに早苗は映姫の言葉を待つ。特別な想いが込められたチョコレートを、そうでないように受け取られるのは、もしかしたら一種の嘘になってしまうのかもしれないし――彼女がそのような曖昧さを許す人でないことを、早苗もよく知っているからだ。

 

「あ、あの、早苗」
「はい、何でしょう映姫」
「わ、私はですね、その。あなたの、ことが――」

 

 必死な彼女の熱が、そのまま身体の中に伝わってくるみたい。
 きっと頬まで熱い私の顔も、彼女と同じぐらいに赤くなってしまっているのだろうか。