■ 46.「緋色の心」
アリスさんの膝の上に座っていると、なんだか……まるで身体中がアリスさんに包まれているみたいな、心地よい温かさがある。アリスさんの膝から天子のお尻に伝わる熱も、アリスさんの胸から天子の背中に伝わってくる熱も、どれもが特別な温かさになって身体の中に浸透してくるみたいだった。
さわさわと天子の頭を撫でてくれていた手のひらは、やがて額を軽く撫でてから、そっと頬の辺りを優しく撫でてくれる。微かに顎に触れて、それから首筋を擽って。繊細に触れる指先の愛撫ひとつで、頭を撫でてくださっていた時とは逆に、今度はどうにも落ち着かなくなってしまう。
「……あぅ、ぁ……」
不意に声が漏れ出てしまって、天子は慌てて自分の口元を押さえた。それでも出てしまった声が取り戻せるわけも無くて、天使のその反応に後ろのアリスさんがくすりと微笑む声が聞こえてしまう。
まるで猫を可愛がるかのような。くすぐったいばかりの愛撫は、天子の心の裡にある何かを急き立てるように溢れさせてしまう。ついさっきまでは、ずっとこの温かさに包まれて居たいと思っていたはずなのに。今は……また昨日みたいに、激しく愛して頂きたいという想いばかりが強まっていくみたいだった。
「アリス、さぁん……」
強請るような声で、天子もまたそれを望む。
意図したわけではなく。殆ど無意識に、そうした口調になってしまっていた。
「エッチな気分になっちゃった?」
「……はい」
素直に頷くと、もう一度アリスさんの手のひらが天子の頭を優しく撫でてくれた。
後ろを振り向いて顔を見つめると、アリスさんは少しだけ困った顔をしてみせて。
「えっと……ごめんなさい、ちょっとだけ我慢できる?」
「我慢、ですか……?」
そんな風に言われるなんて思っていなかったものだから、アリスさんの言葉に天子は少なからず戸惑う。きっとすぐにでも愛していただけるものだとばかり思って、逸る心はどうにもならないのに。
そうした不満が顔や声に出てしまっていたのだろうか。「ごめんなさいね」とアリスさんは小さく申し訳無さそうに呟いて、天子の身体をぎゅっと抱きしめてきてくれて。やっぱり……アリスさんからそんな風にされてしまうと、天子は何も言えなくなってしまうのだった。
「私も天子とエッチなことはしたいけれど……その、やりはじめて夢中になっちゃったら、時間を忘れちゃってすぐ夕方や夜になってしまうと思うから」
「……それは、そうかもしれません」
「ごめんなさいね、できれば明るい間に家の中を案内しておきたいのよ。今みたいな季節は陽が落ちるのが早いし、ただでさえ森の中が暗くなるのは早いから――」
ましてそれが天子の為であるとなれば、それ以上不満の態度を示すことなんて出来るはずもない。
だって……こうして私と一緒に過ごす生活のことを、真面目に考えてくださっているアリスさんの言葉が。天子に嬉しい気持ちを覚えさせない筈がないのだから。
「……はい。我慢、しますね。だから、その、案内が終わったら」
「ええ、判っているわ。ちゃんと最後には、寝室に案内するから」
頬に柔らかな感触が当たる。
それが唇だと判ると。天子はもう一度、今度は自身の唇へ、アリスさんからの口吻けを強請ってみせた。