■ 49.「秘事」
圧し掛かってくる躰が与えてくれる、確かな温もりとそして心地よい重さがある。少しだけ体温が高いはやての躰からは、こうして蜜に肌と肌とを触れ合わせてているだけでもフェイトの躰の中へじわじわと温かなものを伝えてきてくれて。そうして享受される熱が、何よりも確かな安心感をフェイトの心の中に与えてくれるみたいだった。
躰の熱、吐息の熱。それに僅かな互いの汗の匂いのする狭い世界は、どんなにも官能的だ。どんな瞬間よりもはやての存在を感じて安心できる一方では、そうした魅惑に惑わされるかのように頭がくらくらして落ち着かない。友達同士ではいられなくなる――そう思えば少なからず恐怖に似た気持ちも生まれてしまうし、でもやっぱり友達という関係を失った先に在るはずの、より深い繋がりに対する沢山の期待感も無いと言ったら嘘になる。理性と悖徳、鬩ぎ合う心はあるけれど……それでもいま、こんなにもはやてと深く繋がり合いたいと思う気持ちだけは何よりも確かだった。
「ごめん、なあ」
「……どうして、謝るの?」
「だって。私が……フェイトちゃんを好きすぎて、こんなことになってしもうて」
(はやての、せいじゃない)
そう言ってくれるはやての気持ちは嬉しかったけれど、フェイトは心の中ですぐにその言葉を否定する。はやてのせいじゃなくて……私が、はやてに対する思いを留めておけなかっただけなんだ。
多分、本当は求めてはいけない気持ちなんだと思う。こうしてはやてと特別な関係を求めてしまうことで、何か歪んでしまうものだってあるのかもしれない。はやてとなのは、それにフェイト。三人でこれまでずっと繋がってきた確かな友情だって、これまで通りに続けていけるのか、わからないのだ。
きっとそれぐらい、相手の躰を求めるって特別なことだ。こうしてはやてと初めて裸同士で触れあって、お互いに心に幾重にも封じてきた想いの箍を外し合って……その先には何があるのだろう、とフェイトは思う。
「はやて、好きだよ」
「うん、フェイトちゃん……私もやあ」
それでも、もう後には戻れない。戻りたいとも思わない。
はやての白い肌に、そっとフェイトは指先を這わせる。腹部をつつっと撫でた指先で、そのまま乳房にまで触れてしまう。指先が肌を滑る度に、僅かにはやての口元から零れ出る声が愛らしかった。
きっと、それが合図になる。二人はもうどちらも、お互いの躰を受け入れたいという想いが確かなものにまで高められていたから。フェイトの指先をはやては拒まないし、拒まれない限りフェイトもはやての躰を求めることを止めるつもりはないから。
辛いことと倖せなこと、この先どちらがより沢山待っているのかなんてわからないけれど。
ひとつだけ確かなのは――少なくとも、いま、この瞬間だけは。
どんなにもフェイトは。そして……きっとはやても、倖せを実感できているということだけだ。