■ 51.「端書12」

LastUpdate:2009/02/20 初出:YURI-sis

 例え、愛される願望を断たれたとしても。
 それを理由に愛する想いを断つこともできるほど、私は狡猾ではないらしかった。

 

 

 

「ふぅ、ん……!」

 

 図書館の隅。書架の影に隠れて、リトルはひっそりと声を抑えながら、静かに喘ぐ。広すぎる図書館の敷地と音の伝達を妨げる沢山の書架のおかげで、余程大声を張り上げない限りこの場所で声が誰かに届くことがないことはリトルも良く知っていることだけれど。それでも、同じ図書館の中にパチュリー様がいらっしゃって……万に一つでも聞かれてしまったら、と思ってしまうと。どうしても自然と声は窄まってしまうのだ。
 ショーツの中に差し入れた指先は、絶え間なくリトルの躰を責め立てる。たくし上げたスカートの端を加える格好のまま、リトルはその愛撫のひと撫ぜりごとにも小さく躰を震わせた。

 

  『スカートの端でも咥えてなさい』

 

 心の裡で描くのは、あたかもパチュリーさまに責めて頂いている自分の姿。パチュリー様に命令されて恥ずかしい格好をさせられて、パチュリー様の指先によって責めて頂いている――そうした想像に心を馳せながら、現実にはひっそりと自身の指先で自分の躰をリトルは苛んでいく。
 自慰の時にはいつも、リトルはパチュリー様に責めて頂ける自分の姿を思い描くのが常だった。もちろんこれが自慰に過ぎない以上、行為の後には必ず抗いがたい程の淋しさに心が苛まれてしまうし。実際にパチュリーさま本人に責めて頂けたならどれほど倖せだろうか……と思う。
 けれどそれはどれほどリトルが願い、そして行動に移したとしても決して叶わない願いだった。パチュリー様はアリスさんのことが好きで……現にお二人は恋人同士なのだから。そこにリトルが割り込む余地なんて、ありはしないのだから。
 リトルが想いを伝えたとしても、パチュリー様はただ困るだけでしかないのだろう。想いを口にしたとしても、お二人の関係に余計な波風を立てて邪魔することにしかならないのなら――それは決して口にしてはいけないことだ。だって、私はパチュリー様の従者なのだから。
 ふられてもいいから、想いを伝えてしまえたら。そう思う気持ちはあるけれど、そうしてしまうことで唯一アリスさんでも持つことができない、パチュリー様との唯一の確かな繋がり――即ち、パチュリー様の僕であるという自分の立場まで、賭せるほどリトルは蛮勇ではない。

 

「……ん、ぅぅ、んっ……!!」

 

 私のことを苛めて下さるのは、心の中に馳せるパチュリー様だけ。
 どれほどの淋しさが心を締め付けるのだとしても。きっと私は何度でも、こうして自分の躰を想像の儘に苛み続けずにはいられないのだろう。

 

(……ごめんなさい、パチュリー様)

 

 性の憧憬を、自慰にしてしまうなんて、きっと本当はいけないことなのに。
 それでも……せめて心の中でだけは、私だけの主人で居て欲しいから。