■ 58.「偏屈な言葉」

LastUpdate:2009/02/27 初出:YURI-sis

 愛している人にさえ、愛されることを望む言葉を上手く口にできない不器用な私には、
 例えば――強引にでなければ、素直な気持ちの儘で愛されることさえできなかった。

 

 

 

 両腕に籠めた力一杯の抵抗は、けれど勇儀の片手の戒めにさえ簡単に封じられてしまう。パルスィがどれほど力を籠めて振り解こうとしても所詮はただの妖怪の力にしかならなくて、その程度の力が鬼である勇儀に通用するはずもない。顔色一つ変えずに両腕を掴み抑える勇儀の拘束から、パルスィは逃れるだけの力も術も持ち合わせてはいなかった。
 部屋の隅で、両腕を頭の上で押さえつけられている。勇儀の力によって壁に押し当てられている両腕は、加減はされているのだろうけれど相当に痛い。だから振り払ってやろうと思うのだけれど、力が及ばない以上はそれも叶わなくて。寧ろ抗えば抗うほど感じるのは圧倒的な力の差ばかりで、自身の抵抗のあまりの無力さに打ち拉がれるばかりだ。
 そんな風に心が弱っている最中。不意にパルスィの両脚の間、股座へと割り込むように押し入れられてくる勇儀の片膝があった。せめてもの抵抗に頑張って脚を閉じようとするのだけれど、それでもパルスィの力が勇儀に叶う筈もなくて。じりじりと両脚を割る勇儀の膝が、いつしかパルスィの股座にまで押し入ってしまっていた。
 服を身につけているとはいえ、自分の下腹部のすぐそばに温かな勇儀の膝の感触を押し当てられてしまえば、それだけでパルスィは女である自身のことを強く意識させられてしまう。ぐぐっと勇儀の膝がパルスィの両脚の間に食い込んでくる程に、服越しに秘所に感じられてしまう感触に躰が熱くなる。
(また、犯されて、しまうんだ――)
 抵抗は無力で、力ずく蹂躙される自身を想像させるのにもそれは十分すぎるほどで。パルスィは心の中で犯されてしまう自分の姿を意識せずにはいられなくなる。
 少しだけ乱暴で、有無を言わせないやり方。それは勇儀がそうした行為を好んでいるわけではなくて。素直に抱かれることをどうしても許すことができないパルスィの為に。勇儀はいつも、こうして少しだけ乱暴なやり方でパルスィの躰を抱いてくれるのだ。
 ――勇儀のことが、好き。けれどその想いに対して素直になることは本当に儘ならないことで、こうして無理強いするようなやり方で勇儀が自分の躰を求めてくれること、それがパルスィには有難かった。心や躰を相手に委ねるような意識を自分の中に呼び起こさなくても、自分のように非力な妖怪は力で叶わないのだと屈服させられれば相手に躰を委ねるしか無くなってしまうから。そうして躰を譲り渡すことは、本当に楽なことだった。
 勇儀も、そうしたパルスィの心を見透かせばこそ、不慣れな癖に悪役を演じてくれる。それほどに自分などを愛してくれて、真っ直ぐに自分を求めてきてくれる勇儀の存在が……どれほどにも嬉しくて、そして少しだけ妬ましかった。
 もちろん、こんな関係のままではいけないと思う心はパルスィの中にもある。あるけれど、それにはまだ時間が掛かりそうだった。だから今はまだ、こうした関係に甘んじていようと思う。

 

「ふぁ、はっ……!」

 

 ぐりぐりと押しつけてくる膝の動きに、抑えていた声が漏れてしまう。
 膝で秘所に押し当ててくる刺激で呼び起こされるものなんて、本当に些細な性感でしかない筈なのに。それが勇儀が与えてくれる刺激だと思えば、これからどうされてしまうのか……そのことを強く意識させられてしまうようで。無意識のうちに、その期待から、躰が熱くなってしまうのだ。