■ 65.「緋色の心」

LastUpdate:2009/03/06 初出:YURI-sis

「アリスさんの手を……汚してしまっても、構わないでしょうか」
「手を? そのぐらい、全然構わないけれど?」
「……では、すみませんが、触ってみて頂けませんか」

 

 あまりにも恥ずかしいお願いをしてしまっている、そうした自覚が天子にもあるから、頬は熱を持つばかりで。アリスさんにそうとだけ伝えてから、天子はスカートの裾を少しだけたくし上げる。何を触ってみて欲しいのか言葉には示さなかったけれど、天子の示した態度にアリスさんはコクンと頷いて了承の意を示してくれた。
 深い熱を満ちさせた天子の秘所へと、スカートの中へと差し入れられてきたアリスさんの指先が触れてくる。下着の上から軽く触れられるだけでしかないのに、酷く熱を持つそこにアリスさんの冷えた指先が触れると、それだけでびくんと天子の躰は反応を示してしまう。

 

「て、天子……あなたのここ、凄いことになってるわよ……?」
「……はい、お恥ずかしながら」

 

 スカートの中から腕を抜き出したアリスさんの指先には、幾重にも天子の愛液が纏わりついてしまっている。下着越しに触れられただけでこうなのだから……スカートの中がどれほど酷いことになってしまっているのかは、あまりにも明らかなことで。確かめてしまうのが怖くて、天子は自分でそれを確かめることができない。
 それでも、スカートの中で拡がる不快感は相当なもので。アリスさんから貸して頂いている衣服であるだけに、酷く申し訳ない気持ちにもなってしまう。この分では下着だけでなく、スカートのほうまで相当汚してしまっているに違いないだけに、なおさら後ろめたい気持ちばかりが膨らんでしまう。

 

「……天子。今の私の正直な気持ちを言ってもいい?」
「ふぇ? あ、はい。何でしょう……?」
「いま私ね。……すっごく、あなたのことを抱きたくなってる」

 

 咎められるのかと思ったのに。
 あまりにも予想外なアリスさんの言葉に、天子は驚きを隠せない。

 

「だって、こんなにあなたの匂いがするんだもの。……私だって、我慢していられなくなるわよ」
「私はもちろん……抱いて頂くのも、大歓迎なのですが」
「ええ、私もあなたが同じ気持ちで居てくれてることは知っているわ。……でも、こういうのは機会を逃すと、なかなか言えなくなるものだと思うから」
「……そう、ですね」

 

 それは、実際そうなのかもしれないと思う。
 抱いて頂けるのなら、今すぐにそうされたいという願望は天子の中にも確かにある。これほど躰を熱くさせてしまっているのだから、抱かれることを嬉しく思わない筈がない。
 けれど、愛し合う行為は全霊を打ち込むもので、終えてしまったらタイミングを逃してきっと何も言えなくなってしまうから。アリスさんに事情を説明するのなら、いま伝えてしまうしかないことも明らかだった。

 

「だから、私は少しだけ我慢するわね。もちろん、ここを出て寝室に戻ったら、すぐにあなたのことを抱かずには居られなくなるとは思うけれど。……どうしてこんな風になったのか、訊いてもいい?」

 

 優しく訊ねて下さるアリスさんの言葉に、天子はただ静かに頷いて答える。
 伝えにくい言葉を、急かさずに訊かないでおいて下さる優しさ。今すぐに訊いて欲しい言葉を、こうして訊ねて下さる優しさ。そうしたアリスさんの配慮ひとつひとつが、ぜんぶ天子には……ただ、有難かった。