■ 67.「端書17」

LastUpdate:2009/03/08 初出:YURI-sis

「そ、そんなにがっつかないで……」

 

 窘めるパチュリーの言葉も今のリトルには届かないのだろうか。荒げた呼吸を隠しもせず、彼女は貪るようにパチュリーの躰を求めてくる。
 いや……届かないのではないのだろう。それはきっと制止するパチュリーの言葉に、拒絶の意志が僅かにさえ含まれてはいないのだということを、リトルが正しく理解しているだけなのだ。体裁を繕う意味しかない、形だけの拒否。そんなもので純朴な儘に望んでくるリトルの指先を、止められるはずもない。
 温かな痺れが躰の中に満ちていくのは、決して嫌な感覚ではない。寧ろ深い酩酊を交えた快楽さえ齎してくれるのだけれど、却ってそれは気持ちよすぎて、抗わなければならない――そう思えるだけの何かを心の中に呼び起こす。この快楽に身を委ねてしまえば最後、もう自力で抜け出せなくなるかのような、そんな畏怖を感じさせる快楽であった。
(……もう、抜け出せないのだけれどね)
 半ば諦めの心地で、パチュリーはそんなことを思う。性愛を求めることを辞めるには、パチュリーはその魅力を知りすぎてしまった。リトルの指先に何度も苛まれ、幾度となく気を遣ることで得られる快楽の深淵は、一度でも覗き込んだ者を簡単に引きずり堕としてしまう。一度でも堕ちてしまえば最後、その魅惑から逸脱することはできないことだし、そもそもその意志を持つことさえ叶わなくなる。
 言葉とは裏腹に、内心でパチュリーは今日もリトルの指先に残酷なほど乱されることを渇望しているのだ。リトルもそんなパチュリーの内心を知っていればこそ、責める指先を僅かにさえ緩めてはくれないのだろう。
(今日もまた、狂うのね)
 そのことを少しだけ怖いと思う自分も居るはずなのに。
 けれど現実には、その瞬間への期待に満ちた自分ばかりがいるのだから。
(――救いようがない)
 自分のことながら、そう思う。
 救われることを望まない者ほど、愚かなこともないだろうに。