■ 76.「互譲の精神」

LastUpdate:2009/03/17 初出:YURI-sis

 脱がしたシャツが、パサリと音を立てて床に落ちる。殆ど脱ぎ散らすようにして二人分の衣服が床には散乱してしまっているけれど、そんなこと気にもならない。いまのアリスに見えているのは……ただ魔理沙の姿だけ。シャツを脱がしてドロワーズひとつしか身に付けていない彼女の肢体に、視線も思考も、何もかもが釘付けになってしまう。
 魔理沙の両手がアリスの肩に触れてくると、そのままゆっくりとベッドに押し倒されてしまう。背中側に当たる冷たいシーツの感覚と、お腹側に感じられる魔理沙の躰の温もり。下着と下着とが僅かな面積で触れあっている他には、微かに汗ばんだ二人の肌が直接に絡み合っている。
 最愛の人の躰へと密接に触れあえることが、これほどに際限のない幸福感を与えてくれるものだとは知らなかった。アリスはただ、貪るように魔理沙の躰を求め、自分自身の肢体へと絡ませていく。熱く火照る身体同士が幾重にも絡まって、お互いの存在をどんなにも確かめ合っていく感覚。けれど、そうした夢心地の求め合いの中で、どうしても最後に残された僅かな布地の存在が邪魔になって仕方がない。

 

「あ、アリス……」
「……うん」

 

 魔理沙もきっと同じように感じてくれているのだろう。訴えようとする言葉の続きを待たずに、アリスは躰同士の絡み合いの中で器用に魔理沙のドロワーズを脱がしていく。熱い汗と、愛する最中に滲みだした熱い密に蒸れたそこを部屋の空気に直接晒してしまうと、魔理沙の口から可愛らしい悲鳴のようなものが聞こえてきた。
 そうしているうちに、アリスの身に付けていたショーツもいつしか脱がされてしまう。下着に覆われていた下腹部が晒されると、部屋の空気の冷たさが想像以上にひんやりと秘所に感じられてしまって。指先で触れて確かめるまでもなく、どうやら怖いぐらいにそこは濡れてしまっているらしかった。
 僅かな間しか求め合うことを止めてなどいなかったというのに。まるで飢えていたかのように私達は激しく、再度互いの躰を求め絡ませる。冷たいシーツの感覚なんて、すぐに気にならなくなる。肌に感じられるのは、どんなにも熱い魔理沙の躰の存在ひとつだけになっていく。

 

「魔理沙、ぁ……」
「ああ、わかってる」

 

 強請るような声が出てしまったのも、殆ど無意識のうちにだった。激しい絡み合いがやがて穏やかに静まると、求め合いの最中で乱れてしまった二人の吐息だけが部屋の中に響いていく。魔理沙の手のひらがそっと内股の辺りに触れてくると、彼女に促されるよりも早くアリスは両脚を少しだけ広げてその先を待った。

 

「んっ、ぅ……!」
「ご、ごめん、痛かったか?」
「ううん、ただちょっとびっくりしただけ。……気に、しないで?」

 

 魔理沙の指先が下腹部の上を撫でて、やがてそっと性器のほうにまで触れてくる。優しい指遣いはけれど少しだけもどかしく、一刻も早い激しい愛撫の訪れをアリスの躰は心待ちにしているというのに、けれど魔理沙の指先は軽い刺激だけしかアリスに与えてきてはくれない。

 

「は、ぁ、ぁ……!」

 

 それでも触れてくれているのが愛しい魔理沙の指先だと思えば、否応なしに幸福感は幾らでもアリスの心に降り積んでくる。じれったい快楽、もどかしい刺激。より深い指先の圧迫を求めて、アリスは腰を浮かせて魔理沙の指先へ自分の躰を押し当てる。――いつの間にか、気付けばアリスまるで自分自身の躰を擦りつけるようにしてまで、魔理沙の指先に快楽を求めるようになってしまっていた。