■ 78.「互譲の精神」

LastUpdate:2009/03/19 初出:YURI-sis

 それは決して魔理沙がこうした行為に慣れているからではない。激しい愛撫を繰り返す魔理沙の指先は、それを顕すかのようにどこか危なっかしくアリスの躰の脆弱な部位を走り回る。時には深く抉り込むようにアリスの膣の深い場所にまで指先が潜り込み、内側の襞を硬い爪の先で引っ掻き、狂った指先は希にアリスの陰核にさえ鋭い爪痕を残していく。

 

「――んぅううううううっ!!」」

 

 快楽を享受すべく神経が集中した陰核は、深い痛みと共に鮮やかな快楽をアリスの躰に響かせていく。自分の指先では絶対に与えることができないであろう、そうした過酷な愛撫さえ。魔理沙が与えてくれるものだと想えば嬉しさしか心には描き出すことができない。
 自慰の時に感じられるかのような明確な絶頂のタイミングは、とうに見定められなくなってしまっていた。何しろ研ぎ澄まされた神経に満ちる快楽の奔流は、荒れ狂うようにアリスの躰を幾度となく追い詰め責め立てていくのだから。絶頂というものを明確に区分することが不可能な程に、際限なくアリスの躰は達し続けているし、気をやっている最中にさえ、ひっきりなしに与えられる擦淫は鋭い快楽を伽藍の躰に響かせていく。
(も、もう、絶対に自慰なんて、できない……)
 抽送する指先のリズムに合わせて頭を何度も振り乱しながら、アリスはふとそんなことを想う。一度でもこのような深い悦びを知ってしまったからには、もう二度と自慰程度で感じられるようなちっぽけな快感では満足できなくなってしまうと。あまりにも明確に確信できてしまうから。
 愛する人はこんなにも特別で、故に愛する人が与えてくれる快楽もまた、これほどにも特別なものになる。存在するのは無機質な自慰行為では決して見出すことの出来ない、心と躰が共鳴する深い歓喜。愛されることの倖せを孕んだ快楽は、どんな麻薬よりもきっと深い酩酊と中毒性とを併せ持っているに違いないのだ。

 

「魔理沙ぁ……! 好き、ぃっ、魔理沙、ぁ……!」

 

 それに、やっぱり愛する人の名前を呼ぶときには。至近距離で視線の先に捉えて、相手の息遣いや肌の温もりを感じて居たいと思う。そのほうが絶対に、倖せを感じることもできるから。
 愛されることの倖せは、きっといつも深い酩酊の傍にあるのだろう。躰も心も、総てが魔理沙のことしか感知できなくなってしまって。魔理沙の指先に喘いで、魔理沙のことだけを考えて、魔理沙の総てに倖せを感じることができる――そうした、愛する人の為だけの存在になれることだけが。これほどに限りない幸福感を、きっとアリスの心の裡に呼び起こしてくれるのだと。そう、信じられた。

 

「わ、私も、アリスのことが好きだぜっ」
「はぅううんっ……! う、嬉しい、ようっ! 魔理沙、ぁ……!」

 

 普段はなかなか示すことができない愛しているという意思表示と、不思議なほどに信じることができてしまう愛されているという実感。どちらが先に相手を愛したかなんて関係ない。絆されたかどうかに関わらず、アリスはもう、心底から魔理沙を求めて止まないのだから。
 他の人には絶対に見せることができないほどの痴態を、愛する人の前でだけなら何一つ隠さずに見せることができる。愛されたいという欲求は、突き詰めれば包み隠さずに全部曝け出した有りの儘の自分を、愛する人に余すところ無く知って貰いたいという欲求なのかもしれなかった。そうして自身の弱みさえもを総て知って貰って――私の首に、心に。私という存在の総てに枷をつけて、あなただけのものにして欲しいという隷属欲求であるかのような――。

 

「ん、ぁ……! ぁ、あああああ、っ……!!」

 

 実際――魔理沙の所有物となれるなら、それはどれほど倖せなことだろうか。
 快楽の儘、虚ろに霞んでいく意識の中で。夢見るように、アリスはその想いを馳せた。