■ 79.「互譲の精神」

LastUpdate:2009/03/20 初出:YURI-sis

 不意に目覚めた瞬間には、躰中に堪え難い気怠さのようなものが満ちているみたいだった。性愛の中で酷使してしまったせいだろうか、肩や脾腹、それと内股の辺りが少しだけ痺れるように痛む。もちろん魔理沙が与えてくれる愛撫の刺激を、最も享受し続けた秘部にもそれは同じことが言えて。まだ……甘い痛みが、じんじんとそこからアリスの躰に何かを疼き訴えかけてくるような感覚がある。それに何だか、まだ自分の躰の深い場所には何かが入っているかのような異物感があるのが不思議だった。
 痛みも、違和感も――これらの全部が魔理沙に愛して貰えたという確かな証だと思えば、アリスはちっとも嫌な気持ちなんてしないし、却って嬉しいぐらいだった。とりわけ自分の膣の内側に感じられる違和感は、あたかも未だ魔理沙の指先の温もりがそこに残されているかのようにさえ感じられてしまって。
 アリスは、自分の手のひらを下腹部の上そっと宛がってみる。魔理沙から愛される際に感じることができた、怖い程の悦びも幸せも。全部その違和感がアリスに思い出させて、望むだけ何度でも思い起こさせてくれるかのような気がするのだった。
(あれから、何時間経っているのだろう……)
 ふと、そんなことをアリスは思う。求め合う最中にいつしか眠りに落ちてしまっていたらしく、時間の感覚がまるで判らない。普段は浅い睡眠しかなかなか取ることができないのに、疲れ切っていたせいだろうか、今日ばかりは酷く深い眠りの底に落ちていたような気がした。
(安心できる、せいなのかな)
 何一つ衣服を身につけない格好であっても、躰が寒さを感じることがなかったのは、きっとすぐ身近に魔理沙の体温をずっと感じていられたからなのだろう。素肌に感じる毛布やシーツの感覚は少しだけ冷たいのに、けれどそれ以上に同じベッドを共にしている魔理沙から伝わってくる温かな心地良さがあるから。
 こうしてすっかり目が覚めてしまった今でも、左半身には伝播してくる魔理沙の熱を感じることができる。愛しいその存在を確かめるかのように、アリスは魔理沙の肩に、腹部に。そして乳房や頬にも、自身の手のひらを触れさせてみる。魔理沙の肌はどこも穏やかに温かく、触れているだけでアリスの心までもが穏やかに鎮まっていく感覚があった。
 そのまま彼女の頬に手のひらを宛がいながら、彼女の寝顔を眺めてみる。アリスよりも一回り小柄な体躯に似合う、小さな顔。アリスの手のひらにも収まりそうなほど小さくても、その中には端正な顔立ちと、ぱっちりと大きい無垢でつぶらな瞳があって。暗い中でも、あたかも猫ように瞳に小さな輝きを湛えながら、じっとアリスのほうへ視線を投げ掛けてきてくれて……い、る……?

 

「………………なによ、起きてるんじゃないの」
「寝てるとは誰も言ってないぜ」
「起きてるなら、気付いた時点で声ぐらい掛けなさいよ……」

 

 少しだけ口を尖らせて、悪態めいた口調でそう言ってみせるけれど。
 こうして起きている魔理沙と、とても近い距離で向き合えること。それが、アリスにとって嬉しくない筈がなかった。寝顔が見れなかったのはちょっとだけ残念だけれど、きっとその機会はこれから幾らでもあるのだと。そう、信じられたから。

 

「ね、魔理沙。明日は私に……させてね?」
「……お、お手柔らかに頼むぜ……?」

 

 そう、例えば、明日にでも。
 魔理沙が私にそうしてくれたように。アリスもまた、同じぐらい愛してあげるのだから。
 寝顔を眺めることが出来る機会なんて、本当にすぐにでもやってくるに違いないのだ。