■ 5.「魔法少女リリカルなのは/リレー小説 - 03」

LastUpdate:2009/05/05 初出:YURI-sis  今回の担当:桂馬

 言葉は誠実に伝えようと思えば思う程に難しく、ましてはやての言葉を強く否定できないだけにフェイトにはどう言葉にして彼女の誤解を解けばいいのかわからなかった。
 確かに、なのはに対して特別な感情を抱いていた頃が無いといったら嘘になる。だけど、それはあくまで信頼とか憧れとか、そういった類のもので……決して恋愛感情などではない。フェイトが想いを寄せる相手は、今も昔もはやて一人だけであって、はやて以外の誰を求めたいと想ったこともないのだけれど。
 ――もどかしくって、辛い。何よりフェイトの胸に堪えたのは『好き』と告げた言葉の意味は判ってもらえたにも関わらず、それを信じてもらえなかったことだ。もちろん信じてもらえないのは、はやてのせいじゃない。私が……はやての信頼を得るだけのものを、培えていなかったということなのだろう。
(どうすれば、いいんだろう……)
 悲痛に言葉を吐き出すはやてを見ていることが、辛かった。気持ちを簡単に受け入れてもらえるだなんて、安穏と考えていたわけではないけれど、まさかはやてにこんな表情をさせてしまうなんて思わなかったから。こんな風にはやてを困らせてしまうだけの言葉であるなら、言うべきではなかった――。
 けれど気持ちを打ち明けてしまったからには、今更言ってしまった言葉を取り消すことなんてできないことで。
(……どう言えば、信じてもらえるんだろう)
 言葉って、難しい。釈明や、あるいは好きという気持ちを口にする言葉なら幾つでも思いつくけれど。そのどれをはやてに告げたとしても、言葉ははやてに本当に伝えたいことに届かないような気がしてならない。フェイトがこんなにもはやてを特別に想っているという、この気持ちの全てを伝えない限りきっと信じてはもらえないのに。……フェイトには、それら全てを上手く伝えられるだけの言葉を思いつくことができなかった。

 

「ごめん、はやて」
「え?」
「私、馬鹿だから。……他に方法が、思いつかないんだ」

 

 席を立って、フェイトは椅子に座るはやてのほうへ少しだけ近寄る
 彼女の首筋に右手の手のひらを宛がうと。はやての身体が、僅かに萎縮して震えた。

 

「フェイト、ちゃ……」

 

 制止とも取れるようなはやての驚きの声にも耳を貸さずに。
 そっと、フェイトははやての頬に、自身の唇を重ね合わせた。
 フェイトの真意を伝えられるだけの言葉はどうしても思いつかなくて、けれど……拒まれるなら拒まれるにしても、せめてこの気持ちだけは分かって欲しかったから。
 だからフェイトは、そっと想いをキスの中に封じ込める。言葉で伝え切れない思いは、態度で示すことぐらいしか私には思いつけなかったから。
 もちろんこんなことをしたら、はやてに拒絶されるかもしれない。拒絶されれば手のひらで頬を打たれるかもしれないけれど、それでもいいとさえ思えた。強い拒絶の痛みをこの身に感じることができたなら、馬鹿な私でも……さすがに、はやてに対するこの気持ちを諦めることができるような気がしたから。