■ 9.「魔法少女リリカルなのは/リレー小説 - 05」

LastUpdate:2009/05/09 初出:YURI-sis  今回の担当:桂馬

「だ、駄目だよ、はやて。そんな、そんなの……」

 

 予想を大きく超えたはやての行動に、フェイトは慌てて彼女を宥めようとする。けれど突拍子も無い行動の傍らで見せるはやての表情は至って真剣そのもので、彼女の手を取って押し止めようとしながらも、フェイトの心境は複雑を極めていた。
 こんな行動に出てしまう程。それを躊躇わない程に、はやてのことを追い詰めていたのかと改めて思い知らされるような気がしたからだ。フェイトが、なのはのことを好きだという誤解。それがはやての中で生まれて、そして確信に変わってしまうまでの、決して短くない猶予期間がきっとあった筈なのに。
 今の今まで、こうして想いを口にしてしまうまで、ずっとはやてのことをこれほど愛してしまっている気持ちを伝えることができずに押し止めてきた私の優柔不断さが。こうして損われた信頼といった形で、はやてのことを傷つけてしまっている。――そう思うと、心に溢れすぎる罪悪感に、胸が一杯になってしまうような想いがした。
 僅かに開けられた衣服から見えてしまう、はやての肌は酷く扇情的で。その白い肌に魅惑を感じないと言ったら嘘になってしまうし、はやてが口にする誘い言葉にも焚きつけられる心が無いと言ったら嘘になるけれど。それでもフェイトは、忽ち誘惑に負けそうになる自分の心を必死に立ち直らせる。
 はやてのことは好きだし、彼女の躰を求めたいという気持ちはもちろん強固に抱えてもいるけれど。……こんな形で、こんな場所で。誘惑に流される儘に、はやての躰を求めてしまっていいはずがなかった。

 

「どうしてなん……? 私の身体に、魅力が無いから?」
「違うよ、そうじゃなくって。……ここだと、誰かに見られるかもしれないし」
「誰かに見られたら困るんか? 誰かの目とか、そんなつまらないことを気にするん?」
「……うん、するよ。私は誰に見られて、どんな言葉で蔑まれても構わないけれど。でも……もしも、はやてと愛し合ってるところを誰かに見られて、他人の心ない言葉なんかにはやてが傷つけられたりしたら。……きっと、はやてを愛してる私には、とても耐えきれないことだから」

 

 愛している人の為に、自分が傷つくのなら幾らでも構わない。例えはやてが傷つくことを求めるのだとしても、フェイトはそれに抗うつもりさえない。はやての為に傷ついたり、はやてが望んで傷つけてくれた創傷なら。その痛みも傷痕も、きっとフェイトにとって誇ることさえできるものにしかなりはしないのだから。
 でも……はやてが傷つくことは、絶対にフェイトには耐えきれない。例えはやて自身が傷つくことを構わないと口にしたとしても。それでも、私のためにはやてが傷つくことだけは……絶対に耐えきれることではないのだ。

 

「はやてを愛してることの証明が必要なら、きっと私には何だってできるよ。はやてが疑うならなのはの前で『はやてが好き』って宣言することだって容易いし、この場所がいいのなら『はやてのことを愛してる!』って、今すぐこの場所で叫んだって構わない。でも……はやてが傷つくことだけは、私が嫌だから。証明が必要なら、私だけの負担でできることにしてほしいかな」
「フェイト、ちゃん……」

 

 実際、嘘偽りなく。はやてと恋人関係を築くためなら、私には何だってできるだろうけれど。
 私が望むのは。自分自身の幸せではなく、あくまでもはやての幸せなのだから。
 こんな淋しい場所に、誰かが来る可能性なんて到底低いのだとしても。僅かにでもはやてが傷つく可能性がある以上は、いますぐにフェイトの腕ではやてを抱きしめるわけにはいかないのだ。