■ 11.「群像の少女性02」

LastUpdate:2009/05/11 初出:YURI-sis

 例え恋を紡ぐ相手に「理由が無くても会いにきて」と望んだとしても、それを叶えてくれる人というのは希少であるように思えてならないのだけれど。魔法の森からとなると決して近くはない筈の距離を毎日のように飛んできてくれて、お嬢様が諦めのため息を吐くほど臆面もなく当然のように屋敷に上がり込んでくる魔理沙の性格というものは、さすがに希少にも程があるように咲夜には思えてならなかった。
 確かに毎日会いに来ても構わないと言ったのも咲夜のほうであるのだけれど。寒さが厳しい日にも、冷たい雨が降りしきる日にも魔理沙は嫌な顔ひとつせずに咲夜の元まで会いに来てくれる。そこまでして彼女が咲夜の望みを叶えてくれる理由というものが、どうしてもわからなくて。いちど咲夜は魔理沙に、直接尋ねてみたことがある。
 ――そんなの、『会いたい』からに決まってるじゃないか。
 さも当然のことを口にするかのように。何でこんなことを聞くのか、心底わからないといった表情で。
 そう言い切ってくれる彼女の逞しさと、そして真っ直ぐさに。咲夜が心を打たれない筈がなかった。

 

 

 

「さ、咲夜ぁ……も、もう、許してくれ……」
「ふふ、ダメよ。だって勝手に始めちゃったのは、魔理沙のほうでしょう?」

 

 切なそうな嬌声を上げる魔理沙を見下ろしながら、咲夜は妖艶に微笑む。
 案の定仕事を切り上げて自室に戻ってみると、そこには勝手に咲夜のベッドで『始めてしまっていた』魔理沙がいたものだから。咲夜は言ってやったのだ『そんなに私の部屋で自慰がしたいのなら、見ててあげるから何度でもすればいいじゃない』と。
 もちろん魔理沙はそれを拒もうとしたのだけれど、咲夜はそれを許さなかった。魔理沙からしてみれば、自慰で十分に高ぶった躰を一刻も早く咲夜の指先に責め立てて欲しかったのだろうけれど、咲夜はそれを拒んでみせる。咲夜のほうからは一切手を出さずに、ただ椅子に深く腰掛けてじっと魔理沙のほうだけを見つめ続けてみせたのだ。
 扇情的な魔理沙の肢体が、咲夜の心に溢れる愛したいと思う心を刺激してやまないのだけれど、そうした欲望を咲夜はぐっと我慢する。魔理沙が少しだけ苛められることを好んでいることを、今までの性愛の経験から咲夜はよく理解しているし。それに、咲夜もまた苛められて切なそうにな表情を浮かべる魔理沙をとても可愛いと思うものだから。たまにこうして、私たちは打ち合わせもなく軽い苛め合いをしてみせたりするのだった。
 もちろん魔理沙もまた、そうした性愛のエッセンスを理解しているのだ。なればこそ、咲夜が自室を去る前に勝手に自慰をすることを禁止しておいたにも関わらず、咲夜が戻ってくるまで自慰を繰り返していたのだろう。――咲夜が苛められる理由を得るために誘ったから、魔理沙もそれに乗ってきたのだ。つまり私たちのこうしたプレイは、即ち合意のものに他ならないのだ。
(……きっと、ずっと自慰し続けていたのでしょうね)
 苛められる理由を得るためだけに。戻ってくる時間のわからない咲夜を待って、延々ベッドの上で魔理沙は自慰を繰り返していたのだろう。咲夜が離籍していた時間は一時間ちょっとといった所だけれど、果たしてそれだけ長い時間の間に魔理沙は何度自分の躰を追い詰め、達するに至ったのだろうか。
 魔理沙の肌には既に、幾重にも汗が乱れ浮かんでは滴っている。季節柄部屋の中であってもそれなりに寒い昨今だから、数度の絶頂程度ではこれほど汗をかけるものではないだろうに。少なからず自慰することが辛くなっているにも関わらず、それでも咲夜の誘いの条件を満たすために必死に自分の躰を追い詰めてくれていたのだろ思うと、そうした魔理沙の真摯な健気さを咲夜はどれほどにも愛しいと思う。
 けれど、きっともう辛いだけになってしまっている筈のさらなる自慰を、咲夜は魔理沙に望んでいるのだから。……これが、苛めでない筈がなかった。

 

「魔理沙」
「は、ぁっ……な、なんだ、よっ……!」

 

 指先だけを忙しなく動かしながら、きれぎれの声で魔理沙は答える。
 咲夜が望んだ以上、魔理沙はそれを拒まない。辛い筈の自慰にも、望まれた以上は必死に応えてみせている。
(……好きよ、魔理沙)
 そうした魔理沙の健気な愛を、咲夜は狂おしいほど愛しいと思う。
 きっと捻くれてしまっている私だから。こうした魔理沙のあまりにも真摯すぎる想いに、惹かれずにはいられなかったのだろう。……私は、堕ちるべくして魔理沙に恋をしたに他ならないのだ。

 

「ふふ、頑張ってね。あと三回自分の指先でできたら、朝まで私が愛してあげるから」
「……っ!! わ、わかった、約束だぜ……っ!!」

 

 慌ただしい魔理沙の指先が、さらにスピードを上げて彼女自身の身体を苛む。
 私は自分を好きになれないけれど、魔理沙が私の分まで私のことを『好き』という想いをぶつけてきてくれるから。
 私なんかを好きでいてくれる魔理沙の存在が、どんなにも嬉しくて。
 愛しい彼女を、絶対に手放したくないと。今日もまた、咲夜は心に強く思うのだった。