■ 14.「群像の少女性03」

LastUpdate:2009/05/14 初出:YURI-sis

 ソファーがあるから押し倒される場所には困らないとはいえ、普段は部員のみんなと麻雀を打ったり、雑談を交わしている場所だから。……こんな場所で行為に及んでしまって、明日からも平然な顔をしていあれるだろうかと、桃子は少なからず不安になる。そうした不安が表情にも表れていたのだろうか、先輩が優しく桃子の頭を撫でてきてくれた。

 

「……怖かったら、無理しないでいいんだぞ」
「いえ、そういうわけではないんです。ただ……?」
「ただ?」

 

 言わなければ納得して貰えないと思ったから、正直に桃子が自分の心情を打ち明けると。
 確かに、と先輩も少しだけ困った顔で苦笑してみせた。

 

「きっと、平気ではいられないだろうな」
「ですよね……」

 

 ふふっ、と。小さく私たちは笑い合う。
 まるで気持ちが通じ合っているかのように、もう私たちの間にはお互いの躰を求めることに対しての畏怖はすっかり消えてしまっていて。……今では、もう『してしまった後』のことなんかを考えている。そのことが、少しだけ可笑しかった。

 

「脱がしても構わないだろうか、モモ」
「……はい。先輩の、好きにして下さい」

 

 桃子の服に触れてくる指先が、僅かに震えていて。先輩も緊張して下さっているのだということが伝わってくるようで、桃子は少なからず嬉しい気持ちになる。桃子の躰もまた緊張から震えてしまっていたけれど、それも二人で一緒に抱えている緊張感なのであれば、決して不快なものでありなどしないのだから。
 震えていても先輩の指先は器用で、桃子の衣服はあっという間に脱がされてしまう。制服が脱がされて、続けざまに下着も簡単に取り払われてしまうと、そこには先輩に対して何一つ身を隠す術を持たない私だけが残されてしまう。
 先輩の瞳に、自分の全部が見つめられているのかと思うと。あまりの恥ずかしさでかぁーっと頭が熱くなってくる。いますぐにも逃げ出したい気持ちにさえなるけれど、そういうわけにもいかない。私は……これから先輩に、愛して頂くのだから。

 

「……綺麗だ、モモ」
「そ、そんなこと、ないっすよ……」
「ある。私にとってモモ以上に惹かれる相手など居ないのだから。……おまえが一番だよ、モモ」

 

 いつかの大会の時に言われた言葉が、今度はより桃子にとって嬉しい意味として囁かれて。
 忽ち、桃子の瞳からは涙が溢れてきてしまった。どれほど、本当にどれほどの夜を、こうして先輩に愛されることだけを夢見ながら過ごしてきただろうか。自身の指先で躰を慰めさえすることも少なくなく、けれど幻想のものでしかない遠すぎる現実感が、終わった後にはいつも桃子は酷く淋しい気持ちに陥らずにはいられなかったものだけれど。
 けれど……今日のこれは、幻想のものでなどなく。裸の躰に少しだけ冷たい部室の空気も、制服越しにさえ伝わる先輩の体温も、総てが紛れもない現実に他ならないのだ。……そう思うと、先輩の前で泣いてしまってはいけないと想いながらも、感極まってしまうのも仕方ないことなのかもしれなかった。

 

「モモ……」

 

 桃子の涙に、さすがの先輩も少なからず動揺の表情を浮かべてみせる。
 ここから逃げた方がいいとか、強気な言葉を投げていたはずなのに。……結局はこうして桃子のことを大事にしてくれる先輩のことが、愛しすぎてならない。

 

「嬉し涙っすから、止めたりしたら駄目っすよ?」
「……わかった」

 

 裸の桃子に、先輩の冷たい指先が触れる。
 冷たい筈の指先が、けれどじんわりと深い熱を桃子の躰に灯していく。