■ 20.「泥み恋情08」

LastUpdate:2009/05/20 初出:YURI-sis

「無償の愛って言うけれど、そんなの嘘っぱちだわ」

 

 二人で談笑しながら夕食を済ませた後、あまりにも唐突にパルスィがそう口にしてきたものだから。先ず最初に勇儀強く驚かされてしまって、けれど一瞬の間の後には彼女のその言葉があまりに面白くって、くすくすと忍び笑いを零さずにはいられなくなった。

 

「私はあんまり、見返りを期待したりしていないけどなあ」
「それよ、それがおかしいって言ってるの。……勇儀はいつも私に色々してくれてるのに、見返りを求めなさすぎるのよ」
「そんなに色々してるかあ?」
「してるわ。今日の食材を持ってきたのも勇儀だし、こうやって食後に気を利かせて温かいものを入れてくれたりもするじゃない」

 

 ティーカップを片手に持ち上げながらそう言ってくるパルスィの表情が、あまりに真面目なものだから。勇儀はなおさら笑いを抑えていることができなくなる。
 とうとう勇儀が声を上げて笑い始めてしまうと、案の定パルスィはぶすーっと唇を尖らせてみせた。

 

「それは別に、パルスィの為にやってるようなことじゃないよ。あくまで自分のぶんのついでだし」
「あなたにとってついででも何でも、それを私が恩義に感じることに変わりないのよ」
「……そういうことを言ったら、夕食を作ってくれたのはパルスィのほうじゃないか」
「私はのことはいいの」
「………………えー」

 

 言ってることが無茶苦茶だなあ、と想いながら。けれどパルスィがそう言ってきてくれることが、勇儀には嬉しくって溜まらなかった。
 見返りがどうとか、多分そんなことは口にしているパルスィのほうにとってもどうでもいいことなのだろう。ただ、彼女は……自分が素直に口にできない強請るような言葉を、他の些細なことを理由にして求めようとしてきてくれているだけなのだ。
(素直なパルスィも、いつか見せてくれるのかなあ)
 そう想いながら。けれどこうして健気な求め方をしてきてくれるパルスィもまた、どんなにも愛おしいから。
 気まぐれなお姫様の機嫌が変わらないうちに、勇儀も彼女の誘いに乗ることにした。

 

「つまり私にされっぱなしじゃ嫌なんだね?」
「……そうよ。あなたに『貸り』を作りたくないの」
「なるほど、じゃあ私の方から『見返り』を求めれば、釣り合うわけだ」

 

 殆ど用意されたかのような言葉を口にしながら、勇儀はそっとパルスィのほうに顔を寄せる。
 案の定パルスィの小さな顔は、促されるまでもなく自主的に瞼を閉じて受け入れてくれるのだった。