■ 22.「魔法少女リリカルなのは/リレー小説 - 09」
「えっと……やっぱり『全部』っていう回答じゃダメなんだよね?」
「あはは。さすがにそれだと、0点しかあげられんなあ」
「……そうだよね。だけど『全部』っていう単語を使わずに説明するのは、本当に難しいと思うんだ」
はやての何かを好きになったわけでは、ないような気がした。
性格とか、仕草とか。はやてを好きな部分なら沢山あるけれど、そのどれもが決して『はやてのことを好きになった理由』でなどありはしない。強いて言うなら、やっぱり私ははやての『全部』が好きだった。
「私はね、はやて。今まではやて以外の他の誰かを好きになったことがないから、本音を言えば『好き』っていう感情のことも、あんまり明確には判らないんだ」
「……そうなん?」
「うん、本当に。……それでも、私がはやてに対して抱いているこの感情が、きっと『好き』なんだって言うことが判ったのは。自分でも気づいてしまうぐらいに、いつからかはやてのことが特別になっていたからかな」
当たり前だけれど、面と向かってそんなことを話すのはあまりにも恥ずかしくって。フェイトは視線を少しずつはやてのほうから逸らしてしまう。なのにそんなフェイトの気持ちを知ってから知らずか、はやては覗き込むようにしてまでフェイトに視線を重ねてきて――はやての目を見て話すのはあまりにも恥ずかしいことだったけれど、それでも勇気を振り絞ってフェイトは続きを口にしていく。
「えっと、だいぶ昔のことになっちゃうけれど。以前に、はやての泣き顔を見たことがあったよね」
「……私が、まだ車椅子に乗ってた頃やね」
「うん。あの頃にはまだはやてと親しいわけじゃなかったし、私もはやてのことを何も知らなかったよね。……だけど、本当に悲しそうに泣いているはやての顔を見ていると、私も心が凄く痛くなって……少しでもはやての力になりたいって思ったんだ」
はやてのことを、守ってあげたいと思った。私の力で、少しでも彼女の為になりたいと。
だからフェイトは初めの頃、ヴォルケンリッターの人達が酷く羨ましかったのを覚えている。はやての守護騎士であるヴォルケンリッターの人達は、はやてを守るためにいつも傍にいられるのだから。
「でも、そのこと自体は別に特別なことだなんて思わなかった。……私は昔、なのはに救われたから。今の私がいられるのはなのはのお陰だから、きっと昔なのはが私にしてくれたみたいに、はやての力になりたいって感じるんだろうって思った」
「……けれど、違ったんだ?」
「うん、全然違った。……それに気づくのには随分掛かったけれど」
はやての足が、みるみるうちに治って。車椅子を必要としなくなって、彼女は誰かの助けを必要とする弱さを持たなくなった。それどころか管理局へ嘱託従事するようになってからはすぐに、私やなのはにも引けをとらないぐらいの魔導師にさえなってしまった。
「はやてが人を守る強ささえ身に着けて、誰かの助けなんて殆ど必要としないようになってからも、私の中にあるはやてに対する特別な思いは消えなかったんだ。はやてが一人で十分戦えるようになっても、ましてはやての傍にはいつもヴォルケンリッターのみんながいるんだから、それ以上の助けなんて必要ないって判っていても……私の『はやての力になりたい』って気持ちは、消えなかったんだ」
「……それが、理由?」
「うん、これが主な理由、かな。はやての力になりたいっていう私の意志は、多分はやての特別になりたいっていうことだったんだと思う。はやてに頼りにされたいし、信頼されたい。はやての傍に居たいし、すぐ傍に居ることを許されたいって思うんだ。それこそ、はやてが許してくれるなら……この先ずっと、はやての未来のすぐ傍に居たいよ」
ともすれば、プロポーズの言葉みたいだ、とフェイト自身思ってしまう。
はやても同じことを考えてくれたのだろうか。彼女の顔にも、深い色の紅が差していた。
「な、なんや、自分から言わせておいて何やけど……やっぱり、恥ずかしいなあ」
「そうだね、凄く恥ずかしかった。……これで、答えになるかな?」
照れくさくて、頬が暑い。きっと真っ赤になってしまっているのだろうな、と思う。
それでも、フェイトの視線の先で、はやても耳まで真っ赤になってくれているから。恥ずかしすぎるこの気持ちも、二人で共有しているものなのだと思えば、決して嫌なものではなかった。