■ 23.「魔法少女リリカルなのは/リレー小説 - 11」

LastUpdate:2009/05/23 初出:YURI-sis  今回の担当:桂馬

 あまりに総てのことが出来過ぎているようで、フェイトはこうした現状を(これは夢でないだろうか)と、未だどこか疑問を含みながらしか意識せずにはいられなかった。
 けれど、夢じゃない。触れる指先に伝わってくるはやての躰の柔らかな感触、体温、息遣いと鼓動、それと僅かに汗ばむ肌。そういった総てが、夢とするにはあまりにもリアルすぎて。疑問こそ捨て去ることができないながらも、フェイトは絶えずこれが現実なのだと思い知らされる気がした。
 緩やかに組み敷くようにはやての躰の上に自分の全身を触れ合わせると、床にあてがった体重を支えるための両手には、シャツ越しにもひんやりと床の冷たさが伝わってくるようで。両方の手のひらだけでもこんなに冷たいのなら、全身を床に仰向けに寝そべらせているはやての躰の冷たさは幾許ばかりだろう。それを思うとフェイトは凄く申し訳ない気持ちになるようで、けれど……そうした冷たさを我慢してまではやてが自分のことを求めてきてくれているのだと思うと、同時に嬉しくて溜まらない気持ちにもなってしまう。

 

「やっぱり、私が床側に代わってもいいかな?」
「……フェイトちゃんは優しいなあ。そんなの、気にせんでええんよ」

 

 あまりの申し訳なさからフェイトが一応そう訊いてみると、はやてはくすっと小さく微笑みながら案の定あっさりその申し出を拒んでみせた。

 

「私、今日のこと大切な思い出になると思う。フェイトちゃんに初めて告白されて、フェイトちゃんと初めてこんなふうに求め合えるなんて、こんなに幸せすぎたらきっと一生忘れられへん大事な大事な思い出や。……冷たい床なんてちっとも気にもならへんし、却って躰が熱いからちょっと気持ちいいぐらいなんよ」

 

 そんな風にはやてに微笑みながら言われたら、フェイトもそれ以上は何も言えなくなってしまう。
 実際フェイトの躰も火照るように熱く、ましてこれから二人でする行為のことを思えばより体温は高められていくばかりなのだろう。床の冷たさを思うとこれから衣服を脱がしてしまって、はやてが冷たさに対する防護をさらに失うことに対して少なからず躊躇を覚えないわけではないのだけれど。きっと裸になってしまえばすぐに、酷く熱い二人分の体温が混じり合うことを思えば、それも幾らか気にならなくなるのだろうか。

 

「頭を打たないように、気をつけてね」
「うん、わかった。……ん」

 

 仰向けのはやてに、フェイトはもう一度口吻ける。後ろに床があるせいで、フェイトが口吻けを迫ればはやてには僅かな逃げ場所さえ残されてはいない。舌こそ入れないものの殆ど一方的に求めるかのように、フェイトははやての唇をさっきよりもずっと激しい口吻けで求めていく。
 それは、もしもこれではやてが嫌がるようなら、この先を求めることはしないほうがいいような気がしたからだ。きっと一度はやてを裸にしてしまって、そして求める行為を始めてしまえば、フェイトは自分自身さえ抑制することができなくなってしまうかもしれないから。性愛を始めてしまったが最後、こうしたキスのように逃げ場所さえ残されてはいないはやてを、フェイトは激しく求めずにはいられなくなってしまうだろうから。
 だって……今までどれだけの時間を、はやてのことを想って過ごしてきただろう。はやてに会えない時にはいつだってはやてのことを考えていたし、お風呂に入っている時やベッドに入って眠る時にも、そして夢の中でさえいつだってはやてのことだけを想って過ごしてきたのだ。それだけ積み重ねてきた想いがあればこそ、もしも一度はやてを求めることを自分自身に許してしまえばそれだけで、フェイトは自分がいつまで理性を保てるかについてさえ自信を持つことができないのだった。

 

「そんな、試すようなこと言わんといて」

 

 けれどそうしたフェイトの思惟を、総て見透かしたみたいにはやてはそう小さく告げてくる。

 

「私だって、ずっとフェイトちゃんとこんな関係になることを夢見てきたんやから。……心配とか、気遣いみたいなのなんていらへん。フェイトちゃんはただ、好き勝手に私にしたいことをしてくれればええんよ」
「……でも私、見境が無くなったら結構乱暴にしちゃうかもしれないよ?」
「ふふっ、ええねえ。乱暴なフェイトちゃんに愛されるなんて、どきどきしてくるわあ」

 

 可笑しそうに微笑むはやてにつられて、フェイトも柔らかく微笑む。
 けれど性愛を目前にしていては、そうした微笑み合う時間も長くは続かない。開けられて、今にも露わになり始めようとしているはやての衣服に、フェイトは指を掛けていく。本当に、今まで数え切れないほど夢の中で想いを馳せ続けてきたはやての躰を露わにするために。そして二人で、激しく愛し合う為に。

 

「後悔、しても知らないんだからね……」
「せえへんよ。……後悔なんて、絶対にせえへん」

 

 温かなものばかりが、フェイトの心の深い場所に満ちていく感覚がある。
 愛する人が、自分と愛し合う為に精一杯の努力をしてくれている。求めてくる想いに応えようと、総てを許してくれている。――それは、なんて果報なことなんだろうか。