■ 24.「持てる者の檻02」

LastUpdate:2009/05/24 初出:YURI-sis

「最近思うんだけど」
「うん?」
「なんだか魔理沙の部屋って、昔に比べると随分綺麗になったわよね」

 

 少し感心したような口振りでそう指摘してくる霊夢に、魔理沙は小さく笑って答えるしかなかった。実際霊夢の言う通り、とてもじゃないけれど現状から想像できないほどに数ヶ月前の様相は悲惨なものであったのだから。
 片付けられない本で埋め尽くされ、埃に塗れた部屋であっても魔理沙ひとり生きる上ならさして不自由を感じることはなかったのだけれど。こうして霊夢を招き入れる機会が多くなってしまえば、許容することもできなくなってしまう。『汚い部屋ねえ』と軽口を叩きながらも霊夢は気にせず許してくれるけれど、煙たい部屋に慣れず埃に咽ぶ霊夢の姿を見ていると、霊夢が許してくれても魔理沙の方がそれを許せなくなってしまうというものだ。

 

「そのほうが、遠慮しないで済むと思ったんだ」
「遠慮? ……わわっ」

 

 霊夢の躰を引き寄せて、自分の躰ごとベッドのほうへ引き倒す。
 木製のベッドがぎしっと鈍い軋みを上げて、ばふっと柔らかな感触が勢いよく倒れ込んだ二人分の躰を優しく包み込んでくれた。お陽様の匂いがする取り込んだばかりのベッドは、こうして包まっているだけでとても心地よくって、かつての『眠る』という目的の為にしか活用されていなかった頃のベッドとは大違いだ。
 部屋を片付けることも布団を小まめに天日に干すことも、自分のためではなく霊夢の為だと思えば苦にさえならない。あるいは少しでも霊夢に良く思われたいと願う自分自身の為と考えても構わないし、その為の努力なら買ってでもやりたいぐらいなのだから。

 

「……あー。気持ちよくってこのまま寝ちゃいそう」
「そ、それは駄目だぜ。せっかく今日は私が勝ったんだからな」

 

 言いながら、魔理沙の方から霊夢の躰を組み敷くような格好にしてしまう。心地よさからか柔らかに細められていた霊夢の瞳が、たちまち愛し合う時のそれに変化していて。霊夢の方からも、少なからずそうされることを待ち侘びていたことが伝わってくるような気がした。

 

「ふふっ、判っているわ。……私だって、あなたに抱いて欲しいと思っている」

 

 二人だけベッドの上で、ごく近い距離で躰を折り重ねてしまえば嘘を吐くことも容易にはできなくなる。今まで幾度となく霊夢に押し倒され、魔理沙もそのことを経験則から学んできただけに、霊夢が小さく零してくれたその言葉が真実のものであると簡単に理解できてしまう。
 こうして馬鹿みたいな頻度で愛する人と躰を求め合うのは、他人から見れば愚かな行いに映るのだろうか。それでも私たちは、互いに心から望みあって毎日ごと肌を触れ合わせていく。性愛の熱を抱く時間の傍では、果てしなく高い密度で愛する人の存在や総てに感じ入っていられるようで、そこに限りない幸せのようなものさえ感じるのは。――あるいは、短命な人間故の求め方なのかもしれなかった。

 

「………………ん、ぅ」

 

 霊夢の唇に、魔理沙は自分の唇を重ねる。同時に霊夢の頭や躰を抱きかかえるようにして、霊夢のほうからは離れることを許さない一方的な口吻けを展開する。
 さらには舌の先で唇を押し割って霊夢の舌や口腔を蹂躙していく。……不思議なもので、キスをしている間にはまるで神経の総てが口内に集まっているのではないかというぐらい、与えられる刺激や生み出される感覚の総てを鋭敏に感じることができるようになる。だからなのか、こんな風に弾幕ゲームの勝者が先ずキスで相手のことを意の儘にしてしまえばそれだけで、私たちには簡単にお互いの躰を求めるだけの準備が整うのだった。

 

「ま、りさぁ……」

 

 唇が離れたことを惜しむように囁く、霊夢の甘い声が脳を蕩けさせる。
 彼女が総てを差し出す準備を整えたように、魔理沙もまた霊夢の総てが欲しくて堪らなくなっていた。