■ 26.「泥み恋情10」
触れ合わせた指先が僅かに絡み合うと、それだけで心臓がどきどきと高鳴りを始めてくるのが判る。それだけなら些細な行為かもしれないけれど、私たちはその後に控えた特別な行為をよく知っているだけに、既に想いをそちらへ馳せ始めているのかもしれなかった。
次第に顔と顔とが距離を縮めてくる。向かい合うパチュリーが待ち侘びるように先に瞼を閉じてくれたから、あとはアリスのほうから位置を調整して、少し遅れて瞼を閉じるだけで良かった。
触れ合う、唇と唇の感触。狂おしいほど柔らかな感触が僅かに潰れ合い、口吻けを求めて今にも飢えを示しかけていた心が急速に満たされていくのがわかる。
「……紅茶の味しかしないわ」
やがて唇が離れた後、そんな風にあたかも(楽しくなかった)と言わんばかりの悪態をつくのも、いつものパチュリーならではの照れ隠しだと判るだけに却ってアリスは嬉しい気持ちにさせられてしまう。
「そう? 私はちゃんと、パチュリーの味がしたわよ」
「なっ……! そ、そんなこと、あるわけないでしょう」
「そうかしら? ……じゃあもう一度、試してみればいいのではない?」
「……う、あ」
そんな風に再度の口吻けを求めてしまえば、パチュリーは絶対に嫌とは言わない。
寧ろ嬉々として、自分からもう一度瞼を閉じてくれる。凛々しい彼女の長い睫を視界から閉ざすことを少しだけ惜しみながら、アリスもまた瞼を閉じて彼女の唇をもう一度奪う。
二度目のキスはいつも、一度目のそれよりずっと長い。それこそ互いに息苦しくなるほどの密度のキスは、触れ合うだけとはいっても半ば恐慌的な感情の本流を沸き起こすものだった。
「……アリスの、味がする気がしたわ」
二度目のキスのあとには、少しだけ幸せそうな笑顔を正直に見せてくれる。
そんなパチュリーの可愛らしさに、アリスは今日も恋をする。