■ 39.「泥み恋情19」

LastUpdate:2009/06/08 初出:YURI-sis

 朝方から降り始めた雪は陽が高く上る頃の時間になっても降り止むことなく、日中のピークを過ぎれば夕暮れに掛けてその勢いを強めていくばかりだった。朝のうちには霙交じりだった雪も、すっかり夜の帳が下りた今では少なからず積雪を生むようにさえなってしまっている。最近とみに寒くなってきたことを感じるようにはなっていたけれど、まだ暦の上では十一月の今日にまさか雪まで降り出すなんて思っていなかったから。月の光を淡く映して輝く、一面の雪は何だか幻想的でさえあった。
 寒いのは嫌いではないし、暑いことに比べれば好きと言ってもいいぐらいなのだけれど、さすがにこんな雪の夜を縁側で過ごすのは寒すぎて辛い。それでも霊夢には、いまこの場所を離れたいとは思えなかった。

 

「……頑張るねえ」

 

 そんな霊夢に、いつの間に傍にまで来ていたのか萃香がくすくすと小さく笑みながら声を掛けてくる。萃香が笑うのも無理ないことだし、実際霊夢自身でもこんなに頑張る自分がちょっと可笑しかったから、彼女につられるように霊夢もくすくすと笑ってしまう。

 

「さすがに、寒すぎるわ」
「そうだね」
「だから……萃香も早くこっちに来なさいよ」
「ん」

 

 霊夢が促すと、嬉しそうに霊夢の膝の上にちょこんと萃香は腰掛ける。
 萃香の身体は軽く、そして小さくて霊夢の膝の上にもすっぽりと収まってしまう。そのくせ体温だけは高くて、こうして萃香と直に触れているだけで、彼女の温かさのおかげで霊夢は寒さを忘れることができてしまう。
 いつからか、こんな二人の関係が習慣化していた。日中には訪問客が多い博麗神社でも、深夜だけはいつも萃香と二人きりになることができるから、眠る前の長くない時間をいつも萃香と一緒にお酒を飲んで過ごすようになっていた。お酒は幾らでも萃香が準備できるし、雨避けのできる縁側だから空模様が悪くても関係ない。縁側という場所柄寒すぎて辛いことさえ、萃香と寄り添うための口実になるのだと思えば何でもなかった。
 実際初めの頃には二人で並んで飲み合っていたはずが、いつからか方が触れ合うほどの距離にまで寄り添うようになり、今では霊夢の上に萃香がちょこんと座るのが当たり前のようになっている。霊夢とは比べものにならない程の力を持っているはずの萃香なのに、膝の上に乗せてしまえば軽くて小さくて可愛らしくて、こんな小柄な身体のどこに鬼の力を秘めているのだろうといつも不思議に思う。

 

「れ、霊夢……?」

 

 気づけば、萃香の身体を霊夢は抱き締めてしまっていた。
 無意識にしてしまった行動であるせいか、抱き締める力はそれほど強いものではないけれど。それでもぎゅっと圧迫する分だけ、確実に萃香をより身近に霊夢は感じることができる。伝わってくる感触、鼓動、息遣い、そして体温。そのどれもが確かなリアルさを伴って伝わってくることで、霊夢はより嬉しい気持ちで萃香の存在を愛おしく想うことができた。

 

「こうしたほうが温かいのよ。……駄目?」
「だ、駄目じゃないけど……」

 

 駄目じゃない、という言葉の真意が肯定であることぐらいは霊夢にも判る。
 だから霊夢も萃香の身体をぎゅっと抱き竦める力をより強くして、萃香の言葉に応えた。力強く抱き締めるほど、霊夢の躰はより深い密度で萃香と繋がることができるような気がして。
 身体と身体が繋がり合うことで、心に溢れんばかりのこの想いさえも、萃香にまで届いて繋がることができたら素敵なのにと。そっと萃香の髪の毛に口吻けをしながら、霊夢はそんなことさえ想うのだった。