■ 41.「泥み恋情21」

LastUpdate:2009/06/10 初出:YURI-sis

 自分の衝動に正直になっては、いけない気がする。けれど自分の心に嘘を吐くことも、決してやってはいけない事のような気がしてならなかった。理性と誠実、正直と良心。霊夢にどう打ち明ければいいのか――どの心に従うかで、その答えは如何様にも変わってくる気がして、がんじがらめの思索と心に捕らわれて萃香は身動きをすることができなくなってしまう。

 

「……こんな時どうすれば、いいんだろ」
「それは私にも判らないわ。でもね、萃香」
「うん」
「どうすれば正しいのかが判らない時ぐらいは、自分の気持ちに正直になってもいいのではないかしら。……私は萃香のことが好きだし、萃香に甘えたいって思うから。今は自分の正直な気持ちに抗いたいとは思わないわ」

 

 俯いていた萃香の身体を、まるで昨日の再現のように霊夢の両腕がぎゅっと抱いてくる。
 温かくて、それ以上に熱い。愛しい人間の力に掻き抱かれることが、こんなにも幸せなことだなんて、つい先日までは知らなかったことなのに。
 今はもう、手放せなくなっている。萃香はもう霊夢の傍という居場所を、絶対に失えない。

 

「そうだね。……うん、私も正直になることにするよ」
「それがいいわ。私も、萃香に正直で居たいから」
「でも、いいのかな? 正直に言っちゃうけど……私は、結構霊夢とえっちなこともしたいと思ってるから」
「……そ、そう、なんだ……?」

 

 かぁっと、今まで冷静を装っていた筈の霊夢の頬に、一瞬のうちに深い紅が差す。
 冷静を装うと言っても、抱き締められることで伝わってくる早すぎる鼓動のせいで、霊夢もどきどきしてくれていることは簡単に判っていたのだけれど。それでもこうして実際に顔を赤らめてくれれば、私の為に頑張ってくれていたのだと言うことがよく判るみたいで、萃香には嬉しくて仕方がなかった。

 

「し、正直になれって言ったのは私だもんね。……ええ、責任は取るわ」
「そんなこと言って、鬼の力で無理矢理犯されたって知らないんだから」
「ふふっ、乱暴なのも結構嫌いじゃないわよ? それにね、萃香」
「うん?」
「あなたが、そんなことしないって知ってるわ。私は自分を大事にすることができないのに、萃香はいつも私のことを大事にしてくれている。あなたが私の家に住んでいる理由……私が本当に知らないとでも思っているの?」

 

 そんな風に言われたら、萃香だってその言葉を違える事なんてできなくなってしまう。
 霊夢の信頼へ誓うかのように、萃香はそっと抱き締めてくれる霊夢の両腕にそっと自分の手のひらを重ねて応えた。