■ 50.「群像の少女性15」

LastUpdate:2009/06/19 初出:YURI-sis

 酷い疲労感が萃香の躰中を支配しきっているみたいだった。コトが終わったのだから服ぐらいは着た方がいいと思うのに、それをすることさえ今は苦痛に感じられて。結局は裸同然の格好の儘で、霊夢の隣に蹲っていることを選んでしまう。
 こんなに疲労を感じたのなんて本当にどれくらいぶりだろう。……もしかしたら初めてでさえあるのかもしれなかった。かつて誰と戦った時にも、あるいは誰と弾り合った時にも。これほどに疲れを感じたことなんて、きっと無かったように思うのだ。
 疲労に躰が弛緩するばかりで、何も言うことを聞いてくれない。躰の自由がまるで効かないのに、けれど不思議とこの気怠さが心地よくさえ萃香には感じられていた。愛し合う行為は全霊のものだから、疲労を感じるのは当たり前のことで。こんなにも絶対的に疲労を感じるぐらいに愛されることができたのは、それほど萃香が全霊で霊夢に愛された証に違いないのだから。愛されるために費やした萃香の全霊と、愛するために費やしてくれた霊夢の全霊、その二つの結晶である疲労感が不快でなどある筈が無かった。

 

「眠かったら、そのまま寝ちゃってもいいのよ? 膝ぐらいなら貸してあげるわ」
「私も霊夢を愛したいから眠ったりしないもん。……でも、膝は貸して」
「はい、どうぞ」

 

 萃香のほうに膝を向けて正座しながら、ぽんぽんと自分の膝を叩いてみせる霊夢。萃香は殆ど最後の力を振り絞るような気持ちで、差し出してくれた膝に自分の頭を乗せてみる。

 

「あー、霊夢の匂いがする」
「私には萃香の汗の匂いしかしないわ」
「……いっぱい汗かいちゃったからねえ」
「私は好きよ、萃香のこの匂い」
「私だって好きだよ、霊夢のこの匂いは」

 

 膝に頭を埋めながら、萃香もそう答え返す。
 実際、霊夢の匂いが萃香はとても好きだった。霊夢の傍に居られる時にはいつも、お香のような霊夢の匂いを萃香は鋭敏に感じ取ることができた。清浄でいて、けれど優しく包み込んでくれるような――霊夢の匂いに包まれていると、萃香はそれだけで決して小さくない幸せを感じることができる。

 

「……もう暫く、こうしてていい?」
「ええ、構わないわ。……萃香は精一杯私に応えてくれたのだから。膝を貸すぐらい、何でもないわ」

 

 そう言いながら、霊夢は上半身を屈めて萃香の額にキスを落としてくれる。
 霊夢の唇の感触が残る萃香の額に、一際熱い何かが灯るみたいだった。