■ 51.「群像の少女性16」

LastUpdate:2009/06/20 初出:YURI-sis

 緩やかに流れていく時間。こんな風に何もせず、時間を無為に過ごすことが霊夢は嫌いではなかった。萃香がぐったりとしながらも傍に居てくれるおかげで、尚更こんな何でもない時間に霊夢は少なくない幸せのようなものを感じてしまう。
 膝の上に支え感じる、萃香の頭の心地よい重み。膝枕が気持ちの良いものかどうかなんて知らなかったけれど、少なくとも膝を提供する側はそれなりに心地良いみたいだった。勿論、正座に慣れていることは絶対の前提条件になってしまうだろうけれど。

 

「霊夢」
「うん?」
「……好きだよ」

 

 不意に、そんなことを言われて心がときめき立つ。

 

「……ええ、知ってるわよ」
「だよねえ」
「言って貰える分には、何度でも嬉しいけれどね」

 

 実際、こうして改めて言われても愛を囁く言葉は確実に霊夢の心を温めてくれる。
 霊夢の膝の上で、萃香が嬉しそうにはにかむ。言われた方は確実に嬉しいけれど、言う方でも嬉しい気持ちを感じることができるのだろうか。

 

「萃香。……私も、好きよ」
「ホントだ、こういうのって嬉しいね……何度言われても」

 

 確かめるように告げた愛の言葉。相手が自分の告げた愛の言葉を受け止めてくれる――そのことが判っているせいだろうか、なるほど愛の言葉は発する側にとっても嬉しい気持ちを刺激されるものであるらしかった。
 膝の上で笑顔を絶やさない萃香に霊夢はもういちど唇の雫を落とす。今度は額にではなく、違わず萃香の唇に。顔が近づいてきた時点で萃香にも霊夢の意志が伝わったのだろうか。霊夢が瞼を閉じるよりも先に、萃香の方から瞼を閉じて待ち侘びてくれたから、霊夢はすんなり受け入れてくれる相手の唇に重ねるだけでよかった。

 

「……キスも同じだね。何度でも、幸せを感じるよ」
「ええ、本当に。幸せって、こんなに簡単に手に入るものだったのね」

 

 何度でも何度でも、霊夢や萃香が望むたびに幸せは求めることができる。
 けれどそれも、掛け替えのない愛する人が自分を受け入れてくれるという奇跡があればこそのものなのだと。霊夢も萃香も、確かな実感と共に意識する。