■ 53.「群像の少女性18」

LastUpdate:2009/06/22 初出:YURI-sis

「こんなにキツく巻いちゃって……辛くないの?」
「慣れれば案外そうでもないものよ。却って巻いてないと落ち着かないぐらいね」
「ふうん、そういうものなんだ」

 

 確かに霊夢は辛そうな表情を少しも見せないけれど。けれど霊夢の肌に決して薄くない紅を残しさえする晒し木綿の痕跡は、見ている萃香の方が痛々しくて辛かった。
 一日巻いていれば、この程度の痕が付くのは仕方のないことなのだろうか。これぐらいキツく巻いておかなければ、生活でそれなりに身体を動かす程度でも途中で緩んでしまうものなのかもしれない。……そうは思うのだけれど、それでも晒しの痕はどうしても萃香には痛々しく映る。ましてその痕は、霊夢の大事な乳房にまで及んでいるのだから。

 

「本当に平気なのよ。……だから、そんな顔をしないで」
「……うん、ゴメン」

 

 泣きそうな顔でもしていたのだろうか。霊夢に宥められて、慌てて萃香は自分の目元を拭う。まだ涙こそ出ては居なかったけれど、拭った目元はとても熱くなっていて。確かに今にも泣いてしまう直前であったのかもしれない。
 霊夢の躰が傷つくのは、とても痛々しい。もし自分の躰に同じ痕があったとしても、きっと萃香はそこに何の感慨も抱き葉しないのだろうけれど。……愛する人の躰の痛みには、自分自身以上に敏感なものなのかもしれなかった。

 

「霊夢、晒し巻くのやめない……?」

 

 願望が、喉を突いて出てしまう。もしかしたら、それは晒しを巻くことで自分に何かを課そうとしている霊夢の意志を無視する言葉なのかもしれないと。そう萃香が気づいたのは、もう言葉を発してしまった後のことだった。
 萃香の言葉に霊夢は驚いたような表情を浮かべてみせる。けれどその表情は本当に一瞬の間にしか続かず、やがて霊夢はふっと小さく微笑んで、ぽんぽんと優しく萃香の頭を撫でてくる。

 

「やめないわ。……でも、ありがとう」

 

 続いたのは、まるで子供を言い諭すような言葉。それでも『ありがとう』と告げる霊夢の言葉には、とても正直な気持ちが込められているように感じられてしまって、萃香は二の句を継ぐことができなくなってしまう。
(……かなわない、なあ)
 改めて萃香は強くそんなことを思った。
 人間などとは比較にならない時間を生き、相応の知識も経験も蓄えてきた筈であるのに。ただ霊夢を愛してしまっているというその事実一つだけで、こんなにも簡単に私はあしらわれてしまうのだ。