■ 61.「群像の少女性26」

LastUpdate:2009/06/30 初出:YURI-sis

「萃香」

 

 愛しい人の名前を呼ぶ。
 そんな些細なことでも、胸の裡にはまたひとつ熱が生まれる。

 

「……キスして」
「ん」

 

 短い了承の言葉と共に萃香は頷いてくれて、そのまま萃香は霊夢の唇をついばんでくれる。唇をなぞるような口吻けに、ざわっとときめき立つ衝動と共に瞼を閉じた中で愛しい萃香が像を結ぶ。
 こんな風に裸の萃香に四つん這いに押し倒されて、唇を奪われるような格好はひどく扇情的で。萃香の意志で押し倒してくれているのだ――そんな気持ちになれて、霊夢は嬉しくなってしまう。萃香は優しいから、もしも霊夢が僅かにでも悲鳴を上げたり、恐怖や拒絶の言葉を口にしたならすぐに愛する行為を止めてしまうのだろうけれど。
(暴力は嫌いな筈なのにね……)
 不思議と少しぐらいは、野蛮に押し倒されてみたいという願望も霊夢の心には生まれてしまっていたりする。人の力では決して抗いようの無い鬼の力で、萃香の意志の儘に押し倒されるだなんてことは――呆れるぐらい有り得ないことで、けれど途方もなく魅力的なことのようにも思えてしまう。

 

「ちょっとぐらい痛くしてもいいんだからね」
「……できないよ、そんなこと」
「そうよね。……それが、あなたよね」

 

 優しいと知っている。萃香のそんな優しい所も好きな私だから。
 結局は乱暴に愛されたいと思うのも、あくまでちょっとした好奇心でしかないのだろう。霊夢が本心から愛されたいと願うのは、あくまでも優しい萃香ただ一人に違いないのだから。純情で、不器用で、強気に見えて弱気で。鬼であるにも関わらず、人である霊夢より時に弱い表情さえ見せてくれる。
 そんな萃香が、私は好きで好きでならない。