■ 62.「群像の少女性27」

LastUpdate:2009/07/01 初出:YURI-sis

『ちょっとぐらい痛くしてもいいんだからね』

 

 気づけば慌てて否定の言葉を吐き出していたけれど。霊夢のその言葉は、まるで萃香の心を見透かしたかのようなもので、思わずどきりとしてしまう。
 霊夢に愛される最中には多少乱暴にされるぐらいは、望むべくことでさえあった気がしていた。それはきっと、霊夢に乱暴にされることで萃香自身が霊夢のものであれる自分の姿を意識できるからであったのだろうけれど。……いまは逆に、霊夢に少しぐらい乱暴なことをしてしまいたいという気持ちがある。半ば無意識的な感情の理由は、萃香自身にも正確に窺い知ることは難しいけれど。霊夢のものになりたいと思った一時の感情と同一の物であるとするなら、もしかしたら――私が、霊夢の自分のものにしたいという独占欲が感情の正体だということなのだろうか。
 だとするなら、それは萃香自身にさえ驚くべき感情だ。何かを自分のものにしたいという欲望は人間や妖怪にとってとても身近なものであるらしいのに、そうした感情を萃香は今までどこか理解することができないぐらいだったのだから。
 美味しいお酒、美味しい料理、快適な生活。生きる上であれば嬉しいと思う程度のものはもちろんたくさんあるけれど、それを〈自分の物にしたい〉だなんて直球の感情を抱いたことなんて無かった。美味しいお酒があればみんなに振る舞って幸せを感じ合う方が余程有意義だし、独占したいだなんて思うはずもないことなのだけれど。
 ……だけど、霊夢だけは特別だ。
 もし萃香以外の誰かが霊夢の魅力に気づいて、彼女を求めようとしてきたなら。自分がどんな行動に出るかまでは予測できないながらも、自分が決してそれを看過できないであろうことだけは萃香自身にもしみじみと理解できてしまう。
 霊夢が誰にとっても魅力的な人なのは間違いようのないことだけれど、他の人に譲ることなんて考えられることではない。私は……霊夢のことが好きで好きで堪らないのだ。自分が霊夢だけのものでありたいと思うし、それに霊夢を……私はやっぱり、自分だけのものにしたいとも思っているのかもしれなかった。