■ 65.「群像の少女性30」
およそ味らしいものがあるわけではない。――なのに、酷く甘い。
あるとすれば無機物のような妙な味と、それにごく僅かな酸味ぐらいのもの。けれどそれなのに、萃香は殆ど夢中になって霊夢の躰から分泌される蜜を求める。お酒ではないのに、お酒よりもなお深い酩酊感。そして啜るだけで簡単に得られてしまう、怖いぐらいの多幸感。目眩にも似た幻覚作用さえあるそれは、甘露と言うよりもはや麻薬に近いものでさえあるのかもしれなかった。
「ふ、ぁぅっ……! ぁ、ぁ、ぁ、ぁ……!」
どこか遠くに聞こえる静かな喘ぎも耳に心地よく、霊夢が上げる喘ぎひとつひとつとぴったり重なって伝わってくる律動もまた、萃香にはどこか心地よい。
(好きな人が感じてくれるって、こんなに嬉しいことなんだ)
そう思う。好きな人が、自分のことを何よりも深く感じてくれている。少なくともいまこの瞬間だけは、自分のことだけを精一杯に感じてくれている。それを実感できること、それが愛することの最大の喜びなのかもしれない。