■ 67.「群像の少女性32」

LastUpdate:2009/07/06 初出:YURI-sis

 ぴりぴりするような甘い痺れがまだ躰の中に沢山残っている。暖かな毛布に包まれ、隣で一緒に横になっている萃香の体温にも包まれながら、愛された余韻に心を委ねて感じ入るのは、途方もなく幸せなことだった。
 愛し合う行為を終えてから、こうしてぐったりと躰を休めることができて疲労感はある程度拭えたように思えるのに、霊夢の躰にはまだ萃香が触れてきた瞬間そのままのリアルが残されている。和らぐ呼吸の中、けれどじんと実感できる幸福感はただひたすらに心地良い。

 

「私達、しちゃった――のよね」

 

 萃香を愛したことも、萃香に愛されたことも。どちらも疑いようのない程の現実であるにも関わらず、けれど霊夢は漠然とした気持ちそう口にしてしまっていた。ひとりごちた霊夢の言葉に、萃香はくつくつと声を押し殺しながらも可笑しそうに笑ってみせて。『そうだよ』という言葉の代わりに、ぎゅっと毛布の中で霊夢の左手を握りしめてきてくれた。
 萃香に対する自分の気持ちが整理できていなかった頃のことが、殆ど嘘のようにしか思い出すことができなかった。今だから判るけれど――私は、本当に馬鹿みたいに萃香のことを愛していて。こんなにも大きすぎる感情に気づけないでいたなんて、どうかしていたのだとしか思えなかった。
 性愛の最中には酷く長すぎるように感じられていた時間も、終わってしまえばあっという間のことのようにさえ感じられて、正直な気持ちを言えば少なからず終わってしまったことが惜しいぐらい。とはいえ呼吸を落ち着けた今では少し忘れていられるとは言え、躰に積載した疲労は相当なものであるのは間違いない筈で。もう一度愛し合う行為を霊夢が求めたなら、萃香はきっと応じてくれるだろうけれど……その場合、躰が持たないのは霊夢のほうなのだろう。

 

「……あなたは、どこにもいかないのよね」
「行かないよ。霊夢の傍に居る」

 

 まるで当然のことのように、そう言ってくれる萃香の心が嬉しい。
 萃香の優しさのおかげで、逸る心を霊夢は鎮めることができる。萃香は傍に居てくれるから――だから、性急にいま萃香を求められるだけ求める必要なんてないのだ。霊夢が求めればいつでも萃香は応じてくれる。萃香が求めたいと思ってくれればいつだって、霊夢のほうだって応えることができるのだから。