■ 69.「泥み恋情22」

LastUpdate:2009/07/08 初出:YURI-sis

 抱き竦めるように少しだけ強く込めた力で文様の躰を抱き締める。立っている時とは違ってベッドの上で好きな人を抱き締めるというのはちょっとだけ難しいことではあったけれど、文様は身動ぎひとつさえせずに椛の望む儘に両腕の中で抱き締められて下さって、だから椛は文様の躰の温もりを抱き締める力の分だけ直に感じることができた。
 いつも快活で椛を一方的に引っ張っていく強引な文様。いま椛の腕の中で可愛らしく縮こまる文様の中に、そうした積極的な文様の姿を見て取ることはできない。それが少しだけ気になって、椛はそれ以上を文様に求めることを少しだけ躊躇ってしまう。総合的な強さで言えば文様にはまるで及ばない椛だけれど、純粋な腕力だけで言えば椛の方が圧倒的なものだから。こんな風にいつもとは違う表情を見せる文様を椛の意志ひとつでこれ以上に求めてしまうのは、なんだか自分だけの我儘のような気がして恐縮してしまうのだ。

 

「あ、あの。……私は、強引だったりしないでしょうか」

 

 だから椛は、文様にそう訊ねてしまう。
 椛の問いかけに文様は少しきょとんとしてみせると、少しだけ首を傾げてみせて。

 

「強引だと、何か問題があるのでしょうか?」

 

 純粋に不思議そうに、そう椛に逆に問い返してみせた。

 

「そ、それは勿論です! 私は……文様を、無理矢理にお抱きするつもりなんて」
「無理矢理ではないでしょう? もし嫌だと思っているなら、椛の腕から逃げることぐらいなら私にはそんなに難しいことではないんですから」
「……それは、そうかもしれませんが」
「でしたら、変に色々気を遣ったりしないでいいと思いますよ。……私だって椛に抱かれたいと思っているから、こうして素直な自分でいることができるんですから」

 

 頬を橙に近い紅色に染めながら。少し照れくさそうにそう言って下さる文様の言葉が嬉しすぎて、椛は心に溢れすぎる今にも泣いてしまいそうな自分をぐっと堪える。
 そう、文様が椛に総てを許して下さっているのだ。だったら――嬉しさで泣いてしまっている場合なんかじゃない。弱い自分を見せることなく、少しでも紳士的に文様のことをお抱きしたいと思うのであれば尚更のことだ。

 

「……それに私は、少しぐらい強引にされるほうが好きなんですよ」

 

 椛の唇に人差し指を宛がいながら、文様はぽつりとそんな風に零してみせて。
 頭が、かあっと熱を持つ。魅力的すぎる文様に、くらくらしっぱなしの思考の中で。けれど同時に、少しだけ強引に抱いてしまう自分の姿に想いを馳せて――。そうした抱き方さえ許されている自分が、想うほどに幸せすぎてならなかった。