■ 84.「泥み恋情37」
「もし美穂子のその言葉が本気なら、私もあなたに対して本気になることを遠慮しない。だからもう一度訊いてしまうけれど――本当に、本気なの?」
「そ、それは……どういう、意味でしょう?」
久さんが、そう告げてくる意味が判らなくて思わず問い返してしまう。
「私だって、美穂子のことは嫌いじゃないのよ。だから――」
「……だから?」
「あなたを好きになることを私に許してしまうなら、私はもうあなたを手放さなくなってしまうと思う。今後あなたが私に対してどう気持ちを変質させて行くかに関わらず、私はあなたを求めることを躊躇しなくなると思う。……それでも、あなたは私を好きだと言える?」
少し回りくどい言い方だったけれど、久さんが言わんとしてくれることは十分に伝わってくるような気がした。
私だって、生半可な気持ちから『好き』って口にした訳じゃない。言ってしまったこと自体には勢いのようなものもあるけれど、それでも半端な気持ちで告白できるような言葉じゃない。
私だって――久さんのことが好きなのだから。何を迷うことがあるだろう。
「――本気、です」
だから美穂子も、胸を張って久さんに答えることができた。
その言葉はもしかしたら、美穂子が今までの人生で一番意志を込めて吐き出せた台詞かもしれない。