■ 91.「泥み恋情44」
二度目のキスは、一度目のそれとは何もかもが違っていた。軽く触れるだけだった筈のキスは、互いの気持ちを十分に確かめ合えたからなのだろうか、より遠慮を知らない濃厚なものとなって早苗の唇を奪っていく。キスされている最中もずっと身体が密着しあっていて、それだけでも早苗の心は早鐘を打つかのように跳ね上がってしまっていた。
(……あったかい、な)
お風呂上りの霊夢さんの身体から、伝わってくる熱。二人分の衣服を間に介していても、近すぎる距離のせいでじわじわとそれが伝わってきて、あまりの心地よさに眩暈めいたものさえ少なからず感じるような気がする。
ずっとこのぬくもりを感じていたい、この温かさに包まれていたい。――そう思わせるだけの特別に魅力的な何かが、霊夢さんが伝えてきてくれる熱の中には含まれているのかもしれない。
「この部屋に連れてきたってことは、押し倒されても構わないってことかしら?」
ようやく唇が離れた後。霊夢さんはそう問いかけてくるけれど……早苗はその言葉に、答え返すことができない。
あのあと、部屋に誘ったのは早苗の方だった。神奈子様も諏訪子様も、離れからお戻りになられることはないと判ってはいるのだけれど。それでも……キスよりも先を期待する心のせいだろうか、それ以上居間にいるのは何だか早苗自身が許せなくなってしまって。霊夢さんを、自分の部屋に誘ってしまったのだ。
普段遣いのベッドの存在を、これほど卑猥に感じるのは初めてのことだった。確かにわざわざベッドのある私室の方にお招きしたのだから、霊夢さんにそう取られるのも無理はないことで。
そして実際に……もしかしたら早苗は、本当にそんなことを『期待』してしまってさえ、いるのかもしれなかった。
「……あっ」
肩の辺りを軽く押されて。後ろから倒れ込んだ早苗の身体を、柔らかなベッドがばふっと音を立てて受け止める。見上げるのは、まさにいま早苗のことを押し倒した霊夢さんの姿。耳元まで真っ赤に染め上げて、そして少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべながら早苗のことを見つめて下さっている霊夢さんのお姿を見てしまうと。
(私も……期待してない、わけないよね)
こんなふうに実際に押し倒された格好になって、ときめいてばかりいく心がある。現実味を帯びていくほどに嬉しくなっていくこの感情の答えが、霊夢さんに愛されることを切望する心からくるものでない筈がなかった。