■ 95.「泥み恋情47」

LastUpdate:2009/08/03 初出:YURI-sis

 緊張して下さっているのか霊夢さんの指先は震えていて、早苗の服を脱がせようとするもののなかなか上手くはいかず、そもそもベッドの上に押し倒すような格好のままでそう簡単に脱がせられるはずもないのだった。
 結論から言えば――私達はあまりにも性愛のそれに不慣れだった。手こずれば手こずる程に心は焦るし、焦れば焦るほど不安にもなる。互いの気持ちが一致している筈であるのに、愛する行為ひとつをなかなか直接求め合う段階にまで進めないでいるのは、絶対的に経験が不足しているからに他ならない。押し倒す前に早苗のことを脱がせればいいのだし、あるいは早苗に自分で脱ぐように言うだけでも構わない――そんな程度のことにさえ、酷く時間を掛けて手荒に脱がされた後になるまで二人して気づけないで居るのだから、どうしようもなかった。
 けれどその不慣れさは、お互いがお互いを初恋の相手に求めたという何よりの証拠でもあるのだから、同時に嬉しさもまた感じる理由のひとつでもあった。何も知らない私達だけれど、こうして失敗を重ねることで二人一緒に学んでいけるのだから。その喜びは、きっと初恋のひととただ一度しか共有しあえない貴重なものでもある筈だから。

 

「……ごめんなさい、上手くできなくて」
「気にしないで下さい。これから霊夢さんと一緒に、慣れていけばいいことですから」

 

 霊夢さんの視線の先に、生まれた儘の自分の裸を晒してしまっているのに。だけど早苗が妙に緊張を感じないでいられるのは、脱がされることに手こずったおかげでさえあるのかもしれなかった。
 それでも、霊夢さんの指先や手のひらがいざ早苗の躰に触れてくると。急速に忘れていた筈の緊張も呼び起こされ初めて来てしまう。早苗のお腹や肩に、そして乳房にも触れてくる霊夢さんの指先。それは少しだけ冷たくて、変なくすぐったさのようなものを感じさせるけれど。なのに不思議と、同時に温かいものを早苗の躰に感じさせてくれるような気がした。

 

「早苗の躰、熱くて柔らかい……」
「う。こちらの世界の食べ物は美味しくて……ちょっと太ってしまったかもしれません」
「……ああ、ごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃなくて」

 

 ううん、と霊夢さんは少しだけ悩んでみせて。

 

「早苗の躰って。凄く……女の子だな、って思ったのよ」

 

 言われて早苗は急に自分が恥ずかしくなる。だけど、そう言って下さった霊夢さんもまた、恥ずかしそうな表情をずっと浮かべていて下さったから。
 それを我慢して言って下さったのだと思えば。くすぐったくても、やっぱり嬉しい言葉だった。