■ 100.「純愛調教 - 03」

LastUpdate:2009/08/08 初出:YURI-sis

「失礼、挨拶と順序が逆になってしまったわね。――こんばんは、アリス。招待に応じてくれてありがとう」
「え、ええ。こんばんは、レミリア。本日は夕食にお招き下さって、ありがとう」
「……先程も申し上げたけれど、別に何かを咎め立てる為に呼んだ訳じゃないから。だから、その変な警戒心は解いてくれると有難いのだけれど?」

 

 指摘されて、ハッと気づく。確かにレミリアの言う通り、そうした気構えをしてしまっていたかもしれなくて。ぶんぶんと頭を左右に振って半ば無意識に抱いていたその気持ちをアリスは振り払った。
 食事への招待というから、てっきり広間のほうへ通されるものだと思っていたのだけれど。実際に咲夜に案内されたのが、レミリアの私室だったというのもアリスの疑念を深める理由になっていたのかもしれなかった。思いの外に狭くて、そして簡素なもので埋め尽くされている部屋に少なからず違和感を覚えながら。咲夜が引いて促してくれる座席にアリスは腰掛ける。
 小さな洋間に、二人がけの小さなテーブルがひとつ。そもそもレミリアと二人きりでする食事だとさえ思っていなかったものだから、こうして小さなテーブルだけを挟んだ近しい距離でレミリアと見つめ合えてしまうこと自体が、アリスの困惑を深めて止まない。

 

「ごめんなさいね、狭い所で。一度あなたと二人きりで食事がしてみたかったのよ」
「それは全然構わないのだけれど。……少し、意外な気もするわね」
「意外?」
「ええ。こんなに大きな館の主なのに、随分と狭い部屋を使っているみたいだから」
「……ああ、なるほどね」

 

 失礼なことを言ってしまったかな、と少し思ってしまうアリスの心とは裏腹に。くくっ、とレミリアは可笑しそうに小さな笑いさえ零してみせる。

 

「広い部屋で眠るのは落ち着かなくてね。……何しろ理想の睡眠環境は、棺桶程度の狭さなのだから」
「棺桶の狭さ……? ふふっ、なるほど吸血鬼らしいとも言えるのかしら?」

 

 確かに、棺桶のあの狭さが恋しいぐらいであれば、広い部屋ではさぞ落ち着かないことだろう。強力にして偉大な妖怪の最たるものである吸血鬼でありながら、そんな可愛らしいことを口にしてみせるレミリアの言葉が可笑しくって、ついアリスも顔が綻んでしまう。

 

「――さて、場が和んだ所で。本題を先に言ってしまうと、ひとつアリスにお願いしたいことがあるのよ」
「私に? いいけど、私にできることなのかしら」
「ええ。アリスにしか出来ないこと、と言ってもいいわ」
「私にしか……?」

 

 にんまりと笑いながらそう言ってくるレミリアの言葉には、何か言い含むことがあるような気もしながら。それでもアリスは、何かレミリアが自分に望んでくれることがあるというのなら、それに応えたいと思う気持ちを既に強く抱いているのだった。