■ 103.「泥み恋情50」

LastUpdate:2009/08/11 初出:YURI-sis

 徐々に坂道の勾配が厳しいものになってきて、そのせいか階段も多くなってくる。これだけ坂や階段が多いとなると、通学するのはちょっと大変そうだなあと、美穂子は他人事ながら少しだけ心配にもなった。特に雨の日なんかにはとても滑りやすそうで、慎重に歩かないときっと危ないぐらいのように思えたからだ。
 けれど木々に囲まれた階段を登りきると、月明かりに照らし出された後者がすぐ眼前に広がっていて、美穂子は一瞬呆然と立ち尽くしてしまう。清澄の敷地や校舎は公立でありながらとても綺麗に栄えて、魅せられる思いさえ美穂子は抱かずには居られなかった。

 

「どう、結構いい所でしょう?」
「……あ、はい。とてもいいところだと思います、けれど」
「けれど?」
「ええっと……こんな簡単に学校に入れてしまって、いいのでしょうか……?」

 

 もうそれなりに遅い時間なのに、清澄の校門は閉まってさえいない。もちろんこれから学校に入ろうとする美穂子達にとってはありがたいことなのだけれど……やっぱり少しだけあまりのセキュリティ意識の薄さに心配にもなってしまう。

 

「ふふっ、大丈夫よ。田舎の公立高校に入るような物好きな泥棒さんも、そう居ないから」

 

 そう言うと久さんは物怖じもせずに堂々と敷地内を歩いて行き、繋いでいる手に引かれながら美穂子もそれに続く。警備員さんに見つかったりしたら怒られるかもしれないのに、そんなに堂々としていて大丈夫なのだろうか。……それとも、警備員さんさえいらっしゃらない程にこの学校は安全なのだろうか。
 敷地に点在する街灯が二人きりの世界を照らし出していてくれる。それは少しだけ頼りない照明で、私達の足下をそれほどはっきりと浮かび上がらせてはくれなかったけれど。確かな力で美穂子を引っ張ってくれる、久さんの手があるから。これから知らない学校に入るというのに、不安はさほど美穂子の心を苛みもしなかった。