■ 107.「群像の少女性37」

LastUpdate:2009/08/15 初出:YURI-sis

 額から滲んだ汗が目に入って、一瞬早苗の視界を濁り曇らせた。
 それをきっかけに意識してみた途端、自分が怖いぐらいに汗をかいていて、きれぎれに呼吸さえ乱してしまっているのが判る。だけど早苗がそんな状況にあるように、霊夢さんもまた肌という肌にびっしりと汗を浮かべながら早苗を求めて下さっているのがふと目に飛び込んできて、愛する方もまた全霊の気持ちで求めてきて下さっているのだと言うことが強く伝わってくるみたいだった。

 

「ぁ、ぁあ、うっ……ぁ、ああああああああっ……!」

 

 ぴりぴりとした鋭くて深い痺れが全身に伝わると、神経という神経に快楽が波打つように溢れてくる。電気のように伝わる痺れがまるで脳症までもを震えさせるようで、がくがくと心も躰も一緒になって震えてしまっていた。
 全身が一本の弓になったみたいに反り返って、背筋からつま先に至るまでが違いなくぴんと張り詰める。同時に頭の中がさぁっと真っ白になって、私自身の意識が私のものでないかのように儘ならなくなった。
 身も心も、全てが一瞬幻想の海に沈んでしまったみたいだった。それほど深い酩酊があったというのに、けれどそれは刹那のものにすぎなくて、数秒が経過したいまではふわふわとしながらも明確な現実感があった。
(……いってしまった、の?)
 もしかしてこれが、絶頂と呼ばれるものなのだろうか。
 だとするならそれは、何て……怖いものなのだろう。
 全霊で求めて下さる霊夢さんに、全霊で求められた早苗。お互いの全てを打ち込んで躰を重ねた結果に導かれるものは、あたかも臨死体験のようなほど真っ白に霞むものだった。すぐに快楽の余波と酷い疲労感が現実へと引き戻してくれはするのだけれど、だけど……本当に何て怖い行為なのだろう。
 確かにこんなこと、愛する人としかできない。愛する人にしか、許す事なんてできない。霊夢さんが求めて下さる結果だから、こんなに怖い思いをしたとしても早苗には嬉しさしか見出すことができないでいるけれど……きっと霊夢さん以外からこんな行為を求められたとしたら、私は全力で逃げ出してしまうだろう。

 

「……気持ちよかった?」

 

 にんまりと、微笑みながら問いかけて下さる霊夢さんの言葉に。

 

「死にそうなぐらい、気持ちよかったです……」

 

 半ば本心から、早苗はそう応えていた。
 死にそうな程の体験。けれどそれは確かに、掛け替え無く気持ちのよいものであったから。