■ 109.「再契約 - 01」

LastUpdate:2009/08/17 初出:YURI-sis

 契約と呼べるものは、とうに枯れ果てている。
 いまリトルがここに居るのは、あくまでも自由意志。パチュリー様が私をここに置いて下さっているのもまた、自由意志のみに他ならなくて。
 かつて契約を交わしていた間柄という、か細い絆。縋れば簡単に千切れてしまいそうな程の頼りない絆だけが私達を繋いでくれているのかと思うと――淋しいと感じる瞬間も、無いと言ったら嘘になってしまう。

 

「お茶を入れて頂戴、リトル」
「……あ、畏まりました。いつもの茶葉でよろしいですか?」
「ええ、結構よ。二人分の準備をしておいて」

 

 どなたか、いらっしゃるご予定でもあるのだろうか。図書館に併設された給湯まで移動して、お茶の準備をしながらリトルはそんなことを考える。
 紅茶の温度は冷めやすく、しかも冷えるとあまり美味しくない。多少お待たせすることになってしまうのだとしても、お客様がいらっしゃってから準備するほうが良いかもしれないのに。

 

「パチュリー様。お茶の準備ができましたが、どこにお並べしますか?」
「……ああ、ありがとう。このテーブルにで構わないわよ」
「はい」

 

 パチュリー様の前にあるのは、二人がけのごく小さなテーブル。図書館の入り口から離れすぎているこのテーブルは、お客様をお迎えするには不向きであるようにも思うのだけれど。
 それでもパチュリー様の仰る通りに、二人分のお茶の準備を整えていく。ソーサーのお皿を並べ、温めたカップをその上に乗せる。最後にずっしりとしたポットをテーブルの中央に並べれば、それだけで簡単にお茶の準備は整った。

 

「準備整いましたけれど……お茶は、コジーか何かで保温しておきますか?」
「いいえ。もうカップに注いでおいて頂戴」
「は、はあ」

 

 お客様が見えていないうちに、カップに注いでしまうなんて。
 そうは思いながらも、けれど同時に(パチュリー様なりのお考えがあるのだろう)とリトルは妙に得心してしまう。どなたがいらっしゃるのかは存じないけれど……例えば、魔理沙さんのような本を持って行く方を持て成すお茶なら、この程度のほうが意向が伝わって良いのかもしれないし。……あるいは、紅茶のプロと言っても差し支えないほどにお詳しいアリスさんにこれをお出しして、彼女に叱られてみたい、だなんて考えていらっしゃるのかもしれない。

 

「準備できたわね、ありがとう」

 

 いつの間に読書を中断されていたのか、パチュリー様が気づけばリトルの傍にまで近づいていらっしゃって。急に近くに感じたその存在に、リトルは思わずどきりとする。
 一緒に居る時間が多すぎるから、たまに無意識のうちに忘れそうになってしまうけれど。――私は、このお方のことが好きなのだから。こんな風に不意打ちで存在を意識させられてしまえば、心の逸りはなかなか簡単には収まってくれないというのに。