■ 113.「純愛調教 - 05」

LastUpdate:2009/08/21 初出:YURI-sis

「……美味しい」
「ありがとうございます。そう言って頂けると、頑張って鮮魚を仕入れた甲斐がありますね」

 

 無意識に飛び出ていたアリスの言葉に、脇で咲夜が小さく頭を下げる。この幻想郷の中でどうやって仕入れてきたのか、言葉の通り新鮮さが極まったお魚とトマトソースの爽やかさが相俟ったカルパッチョは、料理好きなアリスの舌をも容易に唸らせてしまうほどに美味しかった。
 主菜のパスタのほうも本当に美味しくて、濃厚なクリームソースとリガトーニがこれほどに合うのだと改めて思い知らされる。……けれど、ふと食べることに夢中になりすぎてしまっている自分に気がついて、アリスははっとする。折角長い話をする為に『食べながら』をレミリアが提案してくれたというのに、台無しにしてしまう所だった。

 

「ごめんなさい。あんまり美味しいものだから、つい夢中に」
「ふふ、いいのよ。うちの食事を気に入って頂けるのは嬉しいことだし、それに」
「それに?」
「……こういうことを先に言ってしまうのは気が早いのかもしれないけれど。もしもアリスが私達の提案する『お願い』を引き受けてくれるのであれば、食事ぐらいはいつでも咲夜がアリスの為だけに準備してくれると思うわよ?」

 

 そう言ってレミリアが咲夜のほうを一瞥すると。咲夜もまた、頷いて肯定の意を示してみせた。

 

「喜んで、と申し上げておきます。私にとっても他人事のお話ではないので……あくまでお引き受け下されば、の話ではありますが」
「それは――随分と魅力的な報酬ね。咲夜の料理の腕前は嫌というぐらいに判るし、個人的に教えて貰いたいとも思うから」

 

 なまじ料理の腕に覚えがあるだけに、咲夜が作ってくれる料理のレベルの高さが判る。同時に、今のアリスの腕ではどれだけ背伸びをしても及べないものであることも判ってしまう。
 アリスの料理があくまで家庭レベルに留まるのに対し、咲夜の料理は職人のそれに近い。どういう経緯でそこまで腕前を高めたのかは知らないけれど……彼女の傍で学ぶ事が許されるというのなら、それは相応の大金に決して劣らない程の魅力的な報酬であるのは確かだった。

 

「それで、そろそろ用向きのほうを伺ってしまってもいいかしら?」

 

 報酬が魅力的であれば、やる気は出る。
 けれど私は、まだレミリアが私に依頼しようとしている事柄について、憶測できるだけの情報さえ得ては居ないのだから。兎も角、先ずは以来の内容だけでも早く伺ってみたかった。

 

「……そうね。ええと、どこから話したものかしら」

 

 レミリアは少しだけ考える様子を見せてから。
 やがて静かにひとり頷くと、アリスのほうへ視線を重ね合わせてきた。